特別寄稿

保険マンが見た地下汚染問題
AIU保険(株)
新種保険業務部長兼環境保険室長

大岡 健三
・違法なゴミ処分地を市が購入

処分場業者が倒産したため2億5千万円かけてゴミを撤去した有名な事例がある。撤去作業を開始する前に市は付近の二世帯に別地区の仮設住宅を提供し転居させる費用も手配している。一時転居の理由は、5ヶ月間にわたる廃棄物の撤去作業で、重機の騒音やほこり、悪臭などの発生があるためである。管轄する成田市は廃棄物の撤去のみならず、違法な処分場6,400平方メートルを4,200万円で金融機関から買い上げたという。市は、住民からの要望、再発防止、周辺の環境保全のために購入を決めたというが、4,200万円の算出根拠はどうなっているのだろうか?不法投棄で儲けた廃棄物業者とゴミの排出事業者には責任が及ばず、市民の税金が犯罪行為の後始末に費やされてしまうのだろうか?さらに、深刻な環境汚染を起こした疑いのある違法処分場に、はたして不動産価値があるのだろうか。土地の時価額から現状復帰費用を差し引いた差額が4,200万円であれば公費を支出するに妥当だといえるかもしれない。
現場では、使用済みの注射針、血液の付着したガーゼ、点滴チューブ類、医薬品の容器などが見つかっている。千葉県は1996年9月、現場から医療廃棄物約31トンを緊急撤去し、その費用を不法投棄した廃棄物中間処理業者に負担させた。
行政が廃棄物全体の撤去に動き出したのは、周辺井戸から黒い水が出て人体に有害なガンマンや砒素等が公式に検出され、地下水汚染が確実になってからである。廃棄物が発火して3回も火災になり、ゴミから常時白煙が発生するという異常な状態が続いていた。
ところで、廃棄された医療容器などから医療機関や収集運搬業者が判明し、2つの廃棄物業者が逮捕された。刑事処分は罰金がそれぞれ30万円、50万円という略式命令だけで、不法投棄で得た業者の莫大な利益と比較すると罰金の額が少ない。いい加減な業者に廃棄物を委託したゴミ排出企業の責任も気になる一方、善意の排出企業は昨年開発された環境保険の一種であるゴミ排出者賠償責任保険によってプロテクトされる。
さて、有害物の撤去費用は本来汚染原因者の責任であるが、千葉県と成田市、千葉県産業廃棄物協会が約2億5千万円を負担して撤去作業を実施した。千葉県は廃棄物の撤去に多額の税金を使うことに対し、例外中の例外で今回限りの措置と考えているが、一部に、汚染者負担という廃棄物処理法の原則に反する前例をつくってしまったという批判もある。

・調べればかなりの土地は有害廃棄物の埋め立て跡地?

東京近辺の空き地や窪地、丘陵地には何が埋まっているかわからない。新聞コラムでも「千葉の農地から建設廃材を中心に(地下約50センチから)続々と出てきた。美田に産廃とは悲しくなる。低地に盛り土をする際、農家の経済的な負担を減らそうと、残土を受け入れたことが裏目にでたようだ。」といったものがある。
工場跡地や空き地にビルを建てようと基礎杭を打ち込もうとしたら地中のコンクリート塊にぶつかって、入っていかなかったり、掘削土に6価クロムなどが出現したりする事件も頻発している。土地売買後に地中の埋設廃棄物をめぐって裁判になる事例も増加している。
過去の廃棄物埋立処分地も規模の代償に関係なく、いとも簡単に閉鎖され、地中に有害廃棄物が存在するという記録も記憶も消されつつある。工場等の自社処分場や許可不要のミニ処分場に至っては、相当数の隠れた存在が推定できる。
ゴミがプラスチック類やビニール類、それに汚泥、灰や燃え殻等を含むようになってから、ゴミは容易に土に戻らなくなった。古い埋立処分場の掘削現場で、廃プラ類が10年以上地下深く埋設されてN価50程度の硬度を持ちながら圧密された原型を留めているのを見て驚いたことがある。こういった地層は、未来になると、廃プラ岩または廃プラ地層と呼ばれるのだろうか。
ところで、PCBやトリクロ等の塩素系有機溶剤や鉛、水銀、クロム等の重金属、さらにダイオキシン類などが投棄された履歴を持つ土地は、現在、極めて重大な問題を潜伏させている。特に宅地に転用されるような場合なら潜在していた問題が表面化するだろう。
市街地における廃棄物埋立の事実が発見されると、汚染浄化に多額の経費が支出される。こういった問題を解決するため、米国やカナダでは廃棄物に関する記録制度を設けている。
米国では、不動産譲渡証明書または不動産権利証書類に、土地の用途が廃棄物の処分場であったことを記録し、過去の土地利用が処分場であり、ポストクロージャーケア(閉鎖後管理)要件によって土地の用途が制限されることが土地の購入者に対し通知される。同様にカナダでも、知らずに処分場跡地が他人に譲渡されることを防止するため、埋立操業開始前に、不動産譲渡証明書または不動産権利証書類に廃棄物処分場に使用されることを公式に記録する。
汚染浄化を請け負う企業は汚染浄化賠償保険に加入することが一般的である。日本でも修復中に汚染を拡大してしまった場合の余分な浄化費用を支払う環境保険が認可されている。