〜 特 別 寄 稿 〜

後世につけ回しをしない!


永田 勝也



早稲田大学教授
(理工学術院機械工学科)

永田 勝也
プロフィール
1944年 東京都生まれ
早稲田大学大学院理工学研究科修了
1970年 早稲田大学理工学部助手、専任講師、助教授を経て、1981年より現職
2002年より早稲田大学環境総合研究センター所長を兼務(現在、LCA手法の構築・活用、静脈施設の安全・安心、エコモビリティーシステムの開発、サステナビリティーテクノロジーの開発・普及等の研究を手掛け、作る側と使う側の接点の問題解決を目指している)

  「豊島」(「てしま」と読む)という、瀬戸内海の小島をご存じだろうか。産業廃棄物の不法投棄で有名になってしまった島である。現在、その処理が香川県の豊島廃棄物等処理事業として10年計画で行われている。この問題に係わったのは、公害調停の中間合意が住民と県の間で結ばれ、処理のための技術方策の検討が始められるときであった。あれからすでに9年近くが経過しているが、いまでも現地視察をしたあとで、住民や県関係者、メディアの前で「循環型社会への取り組みの一貫として、『共創』の理念のもと、一緒にあの廃棄物の山の処理にチャレンジしていきましょう」と述べたことを鮮明に記憶している。「共創」とは、目標を同じくする主体的関係者が共に参加・協働して目標の達成や問題の解決に当たろうという理念・思想である。目標を共にする主体的関係者とは、ステークホルダーであり、日本語ではしばしばこれを利害関係者と訳すが、事が環境の場合、パイを取り合う損得の分かれた関係者ではなく、多くは目標が共有されており、その役割のみが異なる関係者ということになろう。

  循環型社会とは、わが国の法制度での切り分けはともかくとして、Sustainable Society、すなわち持続的な発展が望める社会と呼ぶのが一番適切ではないかと思う。リサイクルはあくまでも一つの手段に過ぎなく、「大量生産・大量消費・大量リサイクル」の考え方は、すでに循環型社会へ向かおうとする世の中では否定されている。こうした方向性は、明確に確認・整理しておいたほうがよい。世間で「手段」が「目標」に意図的あるいは非意図的にすり替わってしまうことはよく見かける。

  循環型社会の構築に向けては、人間の生命や健康が第一であり、また、生態系の健全性、さらには将来世代の生活・生産基盤の確保という、この3つの大きな「目標」を見据えながら対応を図り、前進していかなければならない。

  循環型社会では、エネルギーや各種の資源を含めて、可能な限り供給量や使用量を少なくしていくと同時に、有害物質やその可能性があるものについては原則として使用しない、どうしても製品機能を得るために使用しなければならない場合には、循環体系の中で使いこなしていくのが、人間の知恵の使いどころではないかと思っている。これまでのように、社会の出口で何とかしようという対策ではだめというのが、いまや世の中の常識と思う。そうした意味では、社会の上流側の対応の重要性は強調され過ぎることはない。上流で対処することが、下流側での対応より効果的に機能させるであろうことは疑いがない事実である。

  そうしたなかで、我々の心構えとして、後世代の人々や他の地域の人々につけ回しをしないこと、負の遺産を残さないことが原則であると思っている。残念ながら豊島の場合は、つけが回ってきた、大きな負の遺産が残ったということになるが、この豊島問題が住民に与えた心労、不安、解決のために費やされた多くの時間等を考えると、非常に残念な状況が生じてしまったというのが、これまでの歴史であろう。

  豊島を原状回復する際に、問題の廃棄物をそのまま他の地域に渡し、処理処分してもらうわけにはいかない。それでは、つけ回しになってしまう。結局は、豊島廃棄物を処理するということは、廃棄物を一般の人が見ても、これなら使えるという資源に変えなければならないということで、処理事業が行われていると認識している。

  考えてみれば、エコスラグと呼んでいるが、たかが砂代替のものをつくるために、大きな費用負担が生じているという馬鹿げたことになっている、そうしたこともやらざるを得ない事態を招いてしまった。直接的な費用負担のみならず、住民の方々の心の問題を含めて、大きな負担を強いてしまったのが現状であり、二度とこのような事態を生じさせないようにしなければならない。
 豊島廃棄物を資源に戻すための技術の開発にも相当な歳月を掛け、また実際に豊島廃棄物をすべて資源に変えるにも長い期間を要することになる。ここで適用できる技術を選び、それを改良するために、これまでに多くの実験をし、豊島廃棄物でも資源に変えられることを確かめてきたが、この技術も本来は、このような廃棄物を処理するために開発されたものではない。いまは、負の遺産の処理のために使われているが、将来はこのような技術あるいは、こうした形態での技術の適用は必要ないという世の中を創っていかなければならない。

豊島 1990年11月当時 豊島 1990年11月当時
豊島廃棄物等処理事業 2003年3月撮影
 豊島廃棄物等処理事業 2003年3月撮影