ご挨拶

環境庁水質保全局土壌農薬課 課長補佐  福盛田 共義
本年度4月に農林水産省からの出向で、土壌農薬課の土壌担当の課長補佐に着任いたしました。私は、以前に農林水産省構造改善局計画部で、土地改良事業の実施のための農業用水水質基準の担当係を経験したことがあり、久しぶりに土壌・水質関係の業務にたずさわることになりました。

本年度から土壌農薬課に市街地土壌対策の補佐が新設され、土壌汚染対策に関する業務を分担して行うことになりました。私の当面の業務は、土壌全般の他、特に農用地土壌汚染防止法の運用、土壌環境基準の運用、未規制物質の調査などですが、最近の個別案件としましては、酸性雨やダイオキシン類に関する問題があります。

さて、土壌環境とは何かを考えた場合、母なる大地と言われるように、水や大気(空気)とともに、私たち人間だけでなく、すべての動物や植物の生命の根源といえます。食糧や森林資源を生産する機能のほか、豊富な微生物による土壌生態系や土壌に含まれる鉱物が水や大気を浄化する機能、水循環の一つの媒体となって地下水を函養する機能など、人の手では構築しえない数々の機能を持つかけがえのない環境といえましょう。土壌汚染防止の立場から据えるとき、汚染物質の除去、無害化等の対策を考えることになるのは当然ですが、土壌保全の立場から、環境としての土壌を守り育てることも念頭において取り組んでいけないものかと考えています。

我が国の土壌汚染の歴史は古く、特に、鉱山や多くの工場が農用地に近接していることから、すでに明治10年頃から、重金属による農用地の土壌汚染が問題となっていました。昭和45年の公害国会で公害対策基本法が改正され、典型7公害の1つに「土壌の汚染」が追加されるとともに、農用地土壌汚染防止法が制定され、現在では約74%の汚染地域では対策が完了しています。「土壌の汚染」が公害の1つと位置づけられことは大きな転機だったと思います。農作物の生育の阻害、農作物を通じた人間の健康への影響が目に見えて顕在化したこち、その対策が水や大気を通じた汚染物質の流入防止だけでは不十分で蓄積された汚染物質の除去が必要であったことが契機と思われますが、土壌が重要な環境要素であるという共通の社会認識が形成された時期だったとも思います。

一方では、農用地以外の市街地の土壌汚染が社会問題化したのは、昭和50年に東京都で大量の6価クロム汚染土壌が発見されたことが端緒とされている。その後、産業活動の進展による新たな化学物質の取り扱いや急増する廃棄物の処理に関連して土壌汚染の事例が増えてきており、農用地以外でも土壌が重要な環境要素を形成しているという社会的認識がひろまってきたものと考えられます。

ご承知のとおり、我が国の土壌汚染防止対策としては、水質汚濁防止法、大気汚染防止法、廃棄物処理法等により土壌汚染の未然防止対策を講じるともに、土壌環境基準により環境保全上維持することが望ましい目標値を定め、土壌・地下水汚染に関する調査・対策の技術指針を策定し、事業者による自主的取り組みを推進しています。

ここで、昨年、水質汚濁防止法が改正され、地下水の水質浄化に関する措置命令等が規制化されました。土壌の汚染を健康影響という観点からみた場合、地下水経由の健康影響は今回の改正により、担当部分について制度的に対応可能となり、残されているものは、汚染土壌の飛散による大気を通じた健康影響と地下水汚染に至らない土壌汚染そのものによる健康影響ということになります。これまでの土壌汚染対策の目標は主として、土壌の有する水質浄化・地下水函養機能に着目したものであることから、新たな視点での影響の有無の検討が必要となってきたものと考えます。

また、土壌汚染の特徴は、汚染が長期にわたって持続する蓄積性の汚染であること、健康への影響が植物、地下水等を通じて現れる間接影響であること、汚染の発生が局所的であること、土壌の表層部の多くが私有地であることが挙げられ、これらの特徴を踏まえて、平成7年の土壌環境保全対策懇談会では、今後の土壌汚染対策の上で解決すべき幾多の課題が提起されています。土壌汚染対策は、発生源対策と蓄積された有害物質の除去または無害化が必要であるとともに、何よりも未然に防止することが重要であり、難しい問題が多くありますが、一つ一つクリアしていくことが私たちの課題と考えています。

土壌は、なにせその種類が多くその組成や生態系も多種多様で、実はその実態がわからない部分が多い環境といえます。この意味で、土壌汚染対策は個々の現場に即した技術がものをいう分野といえます。土壌環境センターの会員の皆様の技術力に期待するところが大きく、今後ともご協力をいただきつつ、土壌汚染対策の推進に取り組んでいきたいと考えていますのでよろしくお願いします。