第7回 国際土壌・地下水環境ワークショップ開催報告


  1月22日に東京国際フォーラム(ホールC)において、第7回国際土壌・地下水環境ワークショップが開催された。土壌汚染対策法施行から約1年を経て、今年のテーマは、「土壌環境をめぐる潮流−土壌汚染対策法が施行されて何が変わったか−」であった。講演は、環境省、東京都、社団法人不動産協会、佐賀大学、海外からの招待講師によって行われた。また、パネルディスカッションでは、運用主体の立場から東京都、変化の実態を鳥瞰する不動産事業者および海外事情に詳しい講師が、それぞれの立場から土壌汚染問題の現状と課題について意見を述べられた(内容は下表参照)。

総合司会 藤岡庄衛氏
  はじめに総合司会の藤岡氏による開会宣言の後、当センター岡安会長から「土壌汚染対策法の効果、その拡がりや深まりについては、まだもうしばらく見守る必要がある。センターは平成16年度から土壌浄化ビジネスに関する統計調査を実施、分析することにより土壌汚染対策推進のために、土壌法の運用について積極的に提案していきたい」との主催者挨拶があった。
  引き続き、環境省吉田水環境部長から「関係者の間で最新の情報を相互に交換し、知見を深めていくという意味でこのワークショップは極めて重要な役割を果たしてきたと思う。土壌汚染対策法は関係者の理解と協力によりこれまで順調に進んできており、個別の事案に対する現場の自治体の対応もようやく軌道に乗ってきた。土壌汚染問題は一つ一つが固有の特質と背景、事情を有しているためマニュアル通りに一律には処理できず、行政担当者、土地所有者、汚染原因者などの関係者が知恵を絞ってその事案に対して問題の解決のための一番良い方法を見いだしていくという個別の努力が必要である。従って、そのような個別のケースについての情報の蓄積を図ることと、その情報を広く普及する事が非常に重要になっていると考える。我が国の土壌汚染対策の充実を図っていくためには引き続き皆様の協力が必要であり、お願いしたい」との来賓挨拶があった。
  最後に当センター佐藤専務理事より「今回からリクエストに応え、各講演毎に質疑応答の時間を設けた。会場から有意義な質問を頂け、講師の方々の話をより深く理解できたものと思う。今後も皆様のリクエストに応えてこのワークショップをより良きものにしていきたい」との挨拶をもってワークショップは閉会した。
  産官学から623名の参加があり、盛況なワークショップであった。

発 表 者 名
表  題
要      約
太田 進
環境省 水環境部
土壌環境課長
「土壌汚染対策法」の施行状況と諸課題 法に基づく施策は着実に施行されているといえる。今後の課題としては、法の対象とならない自主的な取組の推進、リスクコミュニケーションの推進、簡易で低コストの調査・対策技術の開発・普及、土壌汚染の生活環境や生態系への影響や油汚染の実態等科学的知見の集積が挙げられる。
池田 茂
東京都 環境局
環境改善部副理事
(土壌地下水汚染対策担当)
「土壌汚染対策法」と「東京都環境確保条例」の施行状況について 都は法に先立って条例を定め、土壌汚染対策を進めてきたが、法制定に伴い条例を改正し、法と条例の連携を図った。法と条例を車の両輪として都内の土壌汚染対策が効果的に進むように努力している。
Mark Malander
エクソンモービル
グローバル修復部門
技術コンサルタント
米国の石油汚染サイトの 修復措置プロセスの変更 について
 −規制プログラム 及び業界への影響−
米国ではGSの地下貯蔵タンクからの漏出だけでも37万件を超えており、重大な問題となっている。当社では石油製品及び化学物質による土壌・地下水の汚染修復に関し、迅速かつ有効なリスク管理を行う体制を取っている。そして、多くの経験からリスクベースの枠組みを用いた規制プログラムを採用するよう各国に奨励している。この枠組みを使用することで汚染浄化をより効果的かつ短時間で実施でき、浄化コストの削減の他、リスクの高いサイトに集中できる等の効果が得られている。
現在米国では43州以上がASTMトレーニングを受け、23州でRBCAプログラムが実施されており、同様のプログラムの開発が世界各国で実施、検討されている。
張本 燦
佐賀大学大学院
教授
台湾における土壌汚染問題と法規制の実施状況 台湾では2000年に「土壌及び地下水汚染整地法」が公布、施行された。本法は米国、日本の関連法規制を参考とし、汚染情報の収集、浄化対策とその財源確保、費用負担、罰則等について定めている。基準値は、管制基準と整治(浄化)基準の2段階が設定されている。汚染の状況調査から農地では930haのサイトが浄化の必要があると認められ、7つの工業汚染サイトが発見されている。さらなる汚染調査、指定告知、そして浄化作業を緊急に進める必要があり、そのためには、外国との技術交流の促進、法規や人材育成の方策も必要である。
浅見 和紀
(社)不動産協会
事務局次長
不動産事業と土壌汚染対策 マンション用地取得の際の土壌汚染問題対策を例に、不動産協会員を対象に実施したアンケート結果を交えた解説があった。 売買契約後に汚染が発見されている事例が多いことを踏まえ、協会では、トラブルの未然回避を目的として、土壌汚染対策の指針となるよう「マンション事業における土壌汚染対策に関する留意事項」を策定し、その中に履歴調査や状況調査、措置、賠償請求等が盛り込まれている。現在、「宅地取引の際の留意事項」の策定についても検討中である。
パネルディスカッション
コーディネータ:
 藤岡 庄衛
  (社)土壌環境センター
パネリスト:
 上記各講演者
 及び佐藤専務理事
 (社)土壌環境センター
顕在化してきた 諸課題への対応 法の施行により、調査、浄化手法に伴う世論のものの見方が徐々に変わりつつある。浄化ビジネスは、単純にきれいにすればいいというわけではなく、周辺住民、企業、産業と、あらゆる生命がかかっている。今後法をスムーズに進めていくためにも、リスクマネジメント、リスクコミュニケーション、それに伴う情報開示が重要である。今回は、質疑応答の時間が多めに設定され、会場から法の適用解釈や指定を受けた時の情報公開等、現場サイドの疑問点が投げ掛けられた。


パネルディスカッション風景