〜 部 会 報 告 〜
「重金属不溶化処理土壌の溶出試験法の提案」

重金属不溶化フォローアップ部会 橋本 正憲

 平成13〜14年度、自主事業として「重金属不溶化処理土壌の長期安定性に関する検討部会」の活動を行いました。この結果と部会からの提案を説明します。

〈背景と目的〉
  重金属等の不溶化処理土壌を埋め戻した場合、重金属等がいつか溶出してくるのではないかと不安視する意見があります。また、地下水のpH、酸化還元電位の変化や、微生物の作用によって溶出のおそれがあると考えられますが、ほとんど検討されておりません。
  平成8〜9年度、環境庁委託業務として行った重金属の溶出特性に関する基礎調査によれば、不溶化処理土壌が酸あるいはアルカリに曝された場合に重金属等が溶出してくる可能性が高いと考えられます。  また、実際の不溶化処理において、安定した処理ができない場合がありますが、多くは適正な範囲にpHを維持制御できないためと考えられます。安定した不溶化処理技術とするために、何をどうすればよいのかといった評価指標の設定が望まれています。
  そこで、実際の鉛、砒素、六価クロム、シアン汚染土壌を各社の現有不溶化技術により不溶化して、各種の溶出試験を行い、どの程度の酸あるいはアルカリに耐えられるものなのかを調査することにしました。
  そして、不溶化処理した土壌の安定性、すなわち不溶化処理技術の安定性を評価する溶出試験方法を提案することを目的としました。

〈溶出試験方法〉
  部会で設定した酸添加溶出試験方法とアルカリ添加溶出試験方法について説明します。
  酸添加溶出試験は、酸性雨を想定したものです。酸性雨をpH4.0、年間降雨量2,000mmとしました。土壌を1m×1m×1m=1m3、1.3ton/m3として、100年分の酸量を計算すると15.4meq/kg乾土となります。この酸量を添加して環境庁告示第46号と同様に溶出させるのが酸添加溶出試験Tです。500年分の酸量を添加するのが、酸添加溶出試験U(76.9meq/kg乾土)です。酸は硫酸、塩酸、硝酸を検討しました。
  アルカリ添加溶出試験は、セメント構造物が作製され土壌が消石灰に曝される場合を想定したものです。構造物に接する箇所を想定してアルカリ添加溶出試験Uは飽和消石灰液(769meq/kg乾土)とし、周辺部を想定してアルカリ添加溶出試験Tは76.9meq/kg乾土としました。

〈結果の概要〉
  各社で不溶化処理した土壌は、ほとんどのものが環境庁告示第46号溶出試験、酸添加溶出試験T、アルカリ添加溶出試験Tにおいて判断値(土壌環境基準と同じ数値)を満たしていました。判断値を超過したものが若干ありましたが、処理条件を改良すれば判断値を満たすことができると考えられます。
  酸添加溶出試験U、アルカリ添加溶出試験Uおよび海外の溶出試験では、約半数の不溶化処理土壌が判断値を超過しました。なかには、これらのどの試験条件でも判断値を満たすものもありました。
  一例として、砒素汚染土壌の結果を図に示します。
  なお、硫酸、塩酸、硝酸の結果を比較すると、ほとんど差がないか、あるいは、硫酸の溶出量が若干多いという結果であり、硫酸が適切と判断しました。

〈提 案〉
  不溶化処理土壌が酸性あるいはアルカリ性の水に曝された際の安定性を評価する場合、環境庁告示第46号溶出試験に加えて、硫酸添加溶出試験Tと消石灰添加溶出試験Tを行うことを提案します。
  これらの試験で重金属等が溶出してこないような不溶化処理技術であれば、実際に安定した不溶化処理が可能と考えられ、また、埋め戻した不溶化処理土壌が多少の酸あるいはアルカリに曝されるとしても重金属等の溶出はおこらないと考えます。
  なお、なぜ溶出試験Uでなく溶出試験Tなのかというと、溶出試験Uのような環境に曝されることは極めて稀と考えられるからです。
  ただし、セメント構造物に接する箇所では消石灰添加溶出試験のような環境に曝されるおそれがありますが、全体からみればごく一部であり、このような場合には、不溶化処理土壌が構造物と接しないようにするか、あるいは、接しても溶出しないように薬剤等で処理する、すなわち不溶化処理土壌は適切に管理する必要があることを注記することで対応できると考えます。
  この提案が、各社の不溶化処理技術の完成度向上に役立つことができれば幸いです。

※詳細は、部会報告書あるいはセンターのホームページをご覧下さい。