環 境 省 「土 壌 汚 染 対 策 法」 に つ い て



環境省環境管理局水環境部土壌環境課
1.法制定の経緯
  (1)土壌汚染問題の現状
 
1)
土壌汚染の現状
  土壌汚染は、高度経済成長期を中心に比較的古くから発生していたものと考えられるが、局所的に発生すること、外観からは発見が困難であること、明らかな健康被害は生じさせにくいこと等から、判明することは少なかった。しかし、近年、環境管理の一環として自主的に汚染調査を行う事業者の増加、工場跡地の売却等の際に調査を行う商慣行の広がり等に伴い、土壌汚染が判明する事例が増加している。
  最新の調査結果によれば、昭和50年度から平成12年度末までの間に都道府県等が把握している土壌汚染の調査事例は1,097件であり、このうち土壌環境基準を超過する土壌汚染があった事例は574件であった。また、超過事例のうち平成12年度に判明したものは134件であった。

 
2)
これまでの土壌汚染対策
  土壌汚染への対策は、汚染の未然防止と、既に発生した汚染の浄化等の対策に大別される。このうち汚染の未然防止については、水質汚濁防止法による有害物質の地下浸透の規制、廃棄物の処理及び清掃に関する法律による廃棄物の埋立方法の規制等により、法的拘束力を伴う仕組みによる一定の対策が進められてきた。
  一方、既に発生した汚染への対策については、環境省は、平成3年に人の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準として環境基準を定め逐次対象項目を追加するとともに、土壌汚染の調査、除去等の措置の実施に関する指針を定め、指針を踏まえた地方公共団体の事業者等に対する行政指導という形での取組を進めてきた。
  このような取組は一定の効果をあげてきたが、その一方で「いわゆる典型七公害(大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭)のうち、土壌汚染だけは法規制がない」と言われることもあるように、土壌汚染対策に関する法制度の確立は、長く環境行政上の課題となっていた。

  (2)土壌汚染対策法の制定
  近年、土壌汚染が判明する事例が増加して社会問題としてクローズアップされてきたこと、土壌汚染対策の実施例の増加によりそのルール化の必要性が認識されてきたことといった土壌汚染をめぐる社会的状況の変化から、土壌汚染対策の法制化の機運が高まってきていた。
  こうした状況を踏まえ、環境省では、土壌汚染対策の制度のあり方に関する検討を進め、土壌汚染対策法案が2月15日に閣議決定され、5月22日に原案どおり成立した。現在、平成15年2月15日と定められた施行に向け、準備作業が進められている。

2.土壌汚染対策法の概要
  (1)目 的
 
土壌汚染の状況の把握、土壌汚染による人の健康被害の防止に関する措置等の土壌汚染対策の実施を図ることにより、国民の健康を保護することを目的とする。
  土壌汚染の未然防止については、水質汚濁防止法、廃棄物処理法等に基づき必要な規制がなされていることから、本法では既に発生した土壌汚染について、その状況の把握、汚染の除去等の措置という事後的な対策を講ずることとしたものである。


(2)特定有害物質
 
本法の対象となる物質(特定有害物質)は、土壌に含まれることに起因して健康被害を生ずるおそれがあるものとし、政令で定めることとしている。政令では、鉛、砒素、トリクロロエチレン等の25物質を指定している。
  これらの25物質は、土壌に含まれることにより、地下水に溶出してその飲用等に伴う健康被害を生ずるおそれがある。また、このうち9物質については、汚染土壌を直接摂取(摂食又は皮膚接触)することによる健康被害のおそれも認められる。


(3)土壌汚染の状況の調査
 
1)
有害物質使用特定施設に係る土地の調査
  特定有害物質の製造、使用又は処理をする水質汚濁防止法の特定施設(有害物質使用特定施設)が設置されている工場又は事業場の敷地を対象として、有害物質使用特定施設の使用廃止の時点において、土地の所有者等に対し、土壌汚染の調査を実施しその結果を都道府県知事(政令指定都市等の市においては、市長)に報告する義務を課している。
  なお、施設の使用廃止後も土地が引き続き工場又は事業場の用途に供される場合など、土地利用からみて健康被害のおそれがない場合は、都道府県知事の確認を受けてその時点では調査を行わず、工場又は事業場以外の用途に転用するなどの際にその時点での土地の所有者等が調査を行うこととしている。

 
2)
健康被害が生ずるおそれがある土地の調査
  都道府県知事は、土壌汚染により人の健康被害が生ずるおそれがある土地があると認めるときは、土地の所有者等に調査及びその結果の報告を命ずることができる。
  調査命令の対象となる土地の要件は、正確には土壌汚染対策法施行令に規定されているとおりであるが、概ね、(1)地下水汚染が発見され、その周辺で地下水を飲用等に利用している場合、(2)土壌汚染のおそれがある土地が、一般の人が立ち入ることができる状態になっている場合の2つの場合である。

  (4)指定区域の指定等
 
1)
指定区域の指定
  土壌汚染状況調査の結果、土壌中に一定の基準を超える特定有害物質が検出された土地については、都道府県知事は指定区域として指定し、公示する。
  指定区域の指定基準は、25物質のすべてについて水への溶出量により示される基準を、土壌の直接摂取による健康被害のおそれがある9物質について含有量により示される基準を定めることとなる。
  指定区域の指定は、土壌汚染の除去が行われた場合には解除される。なお、除去以外の措置(封じ込め、盛土・舗装等)が行われた場合は、土壌中に一定の基準を超える特定有害物質が存在していることに変わりはないことから、指定区域の指定は解除されない。

 
2)
指定区域台帳
  都道府県知事は、指定区域の台帳を作成し、閲覧に供する。指定区域台帳には、指定区域の所在地、特定有害物質の溶出量・含有量などの土壌汚染の状態、汚染の除去等の措置の実施状況等が記載される。

  (5)土壌汚染による健康被害の防止措置
 
1)
汚染の除去等の措置命令
  都道府県知事は、指定区域内の土地の土壌汚染により健康被害が生ずるおそれがあると認めるときは、土地所有者等に対し、汚染の除去等の措置を講ずべきことを命ずることができる。なお、汚染原因者が明らかな場合であって、汚染原因者に措置を講じさせることにつき土地所有者等に異議がないときは、都道府県知事は、汚染原因者に対し命ずることとなる。
  措置命令の対象となる土地の要件は、正確には土壌汚染対策法施行令に規定されているとおりであるが、概ね、(1)周辺で地下水を飲用等に利用している場合、(2)一般の人が立ち入ることができる状態になっている場合の2つの場合である。
  汚染の除去等の措置としては、土壌汚染の浄化に限らず土壌汚染から人への特定有害物質の暴露経路の遮断による措置を認めている。具体的には、土壌の直接摂取に係る措置として、立入禁止、盛土、舗装、浄化等を行うこととなる。また、地下水経由の健康影響に係る措置として、地下水汚染がある場合には封じ込め、浄化等を、地下水汚染がない場合には地下水モニタリング等を行うこととなる。

 
2)
汚染の除去等の措置に要した費用の請求
  (1)の命令を受けて土地所有者等が汚染の除去等の措置を講じたときは、汚染原因者に対し、これに要した費用を請求できることとしている。

 
3)
土地の形質変更の規制
  指定区域内において土地の形質変更をしようとする者は、都道府県知事に届け出なければならない。都道府県知事は、その施行方法が基準に適合しないと認めるときは、その届出をした者に対し、施行方法に関する計画の変更を命ずることができる。

  (6)その他
  このほか、土壌汚染状況調査を実施する指定調査機関、汚染の除去等の措置に関する助成等を行う指定支援法人について定めるとともに、報告徴収及び立入検査、国の援助、研究の推進、国民の理解の増進等の諸規定が置かれている。

3.おわりに
  本法は、他の環境保全に関する法制度と比べ、地方公共団体、土地の所有者等、汚染原因者などの関係者に、個々の事例に則して適切な対応を検討し、実施することを求めるものであることから、現場での適正な運用が非常に重要となる。
  法の円滑な施行に向け、これらの関係者の御協力をお願いしたい。