特 別 寄 稿 〜

名古屋市における土壌汚染対策について



宇佐美 義郎  名古屋市環境局
 公害対策部主幹
 宇佐美 義郎
宇佐美 義郎 プロフィール
1948年 愛知県生まれ
1974年 岐阜大学農学部卒
2001年 4月から現職
    (2002年から役職名<生活環境担当>から
     <フロン類回収・有害化学物質担当>に変更)

  近年市街地の土壌汚染問題が各地で顕在化してきているが、この土壌汚染の多くは、過去の使用、運搬、廃棄等の過程の中で汚染されてきたものが、工場の閉鎖などに伴う、用途の変更時などにおいて、土壌調査を行った結果発見されるというケースが多く、古くて新しい問題となってきている。名古屋市においても工場等の跡地の再開発に伴う汚染事例が多くなってきている。ここでは、名古屋市の取り組み及び公表の基準などを中心に紹介したい。

1.要綱を作成した目的、その経緯

  そもそも名古屋市における市街地の土壌汚染問題は、化学工場跡地の水銀汚染問題が発端となり、昭和60年及び平成元年に市街地における土壌汚染対策について公害対策審議会に諮問し検討していた。その結果、平成4年に土壌汚染問題が生じたとき、または汚染土壌地の土地利用転換時に土壌汚染問題を生じる恐れのある場合、その指導のあり方として、判断基準、調査方法及び処理対策等についての答申を得ていたが、制度としては当時まだ未整備であった。
  しかし、平成9年に本市にある電気機械器
名古屋市土壌汚染対策指導要綱のフロー名古屋市土壌汚染対策指導要綱のフロー
具工場及び輸送用機械器具製造業跡地から相次いで土壌・地下水汚染が顕在化し、社会問題となり、制度の整備が求められた結果、平成11年に「名古屋市土壌汚染対策指導要綱」を策定した。

2.市要綱のあらまし

  市要綱に基づく調査の方法及び処理対策の概要は次の通り。
(1)要綱の対象
  対象地:
  特定有害物質の製造、使用、保管等を現在または過去に行ったことのある事業場の敷
  地、跡地であって500m2以上の土地
  報告時期:
  工場等の移転または廃止の際に建築物等を取り壊すことに伴う土地の改変時または工場
  等の跡地の改変時

(2)調 査
  資料等調査:
  過去から現在にわたる工場等の概要、使用薬品等から土壌汚染の有無の判定
  概況調査:
  表土調査及びガス調査を実施、平面的な汚染状況を把握
  詳細調査:
  概況調査の結果を基にボーリングによる土壌調査などを実施、汚染の範囲、程度等の把
  握を行い対策の基礎資料とする。また、地下水汚染の恐れのある場合は、地下水調査も
  実施

(3)処理対策
  土壌・地下水汚染の飛散・拡散防止を図る応急対策の実施。汚染物質、汚染の程度、周辺 の社会的条件などを勘案した恒久対策の実施

(4)モニタリング及び記録の保管
  対策の効果判断のための地下水・大気等の測定、調査及び処理対策の記録の保管、承継

(5)土壌汚染浄化のチェック
  事業者からは調査に基づく処理対策の計画を提出させ、その処理対策についての有効性などについて、公開で開催される専門家で構成する検討委員会に報告し、技術的な助言を受ける。処理対策が完了した際にもその旨の報告を提出させ、検討委員会に報告する。
  処理対策によって、引き続き地下水のモニタリングなど効果を把握する必要があると認めた事例については、効果確認調査を実施させ、その報告を受けることにより環境基準に適合すると認められるまで監視する。
3.公表の基準
  市要綱に基づき、調査、処理対策の報告をもらうことになっているが、従来、市としてのこれら報告についての公表基準が無く、事業者の自主的発表を待つという消極的な姿勢だった。併せて周辺地域の地下水調査もケースバイケースで行っていたこともあり、これらを示す統一した基準作りが課題となっていた。その間、土壌汚染の事例が発生し、マスコミなどから非難を浴びたこともあり、昨年7月に公表の基準等を示した運用指針を策定し、環境
  土壌汚染対策指導要綱に基づく報告書の件数
報 告 書
平成11年度
平成12年度
平成13年度
資料等調査結果
14
22
29
土壌等調査計画
3
12
29
土壌等調査結果
2
10
28
処理対策計画
6
15
処理対策実施
4
12
効果確認調査結果
0
0
4
その他事業者からの自主報告に基づく市への土壌汚染報告件数は、平成11年度4件、平成12年度4件、平成13年度7件ある。
基準等をオーバーした土壌汚染の報告があれば速やかに公表していくこととした。
  当初は、それまでの土壌汚染に対するマスコミの扱いがセンセーショナルなとらえ方もされる事例も多く、住民の過剰な反応もあったことから、事業者が市への報告に対して消極的になるのではという懸念もあったが、最近は自主報告も増加し、市へ報告イコール公表と言うことも理解され、事業者自らも公表、地元等への説明を行うなど対応してきている。
  市としても、市民が無用な不安を抱かないよう市民向け及び事業者向けの土壌汚染パンフレット、ホームページを作成して、土壌汚染に対する正確でわかりやすい情報の提供に努めている。

4.今後の課題
  現在名古屋市では、公害防止条例の見直しを行っており、本年7月に市環境審議会より基本的な考え方について答申を受けたところである。その中では、従来の要綱での指導を後退させることなく、なおかつ大規模の土地改変に伴う土壌汚染についても配慮することが示されている。これは現在までの土壌汚染事例の中で有害物質を使用等していない事業場の跡地においても汚染が見つけられるという実態から提起されたものである。この答申の趣旨を受け、今後条例化に
あたっては国が 策定した「土壌汚染対策法」との整合を図る必要があり、調査対象の整合が重要と考えている。特に調査のやりなおしや、手続きの二重化等、事業者に対する過剰な負担をかけることのないよう配慮していく必要を感じている。
  また、本市の場合、自然的要因と考えられる事例も多いことから、これらに対する対応についても配慮していかなければいけないと考えているところである。併せて、周辺住民等に対して正しく、わかりやすい情報提供についても今後とも努めていくことが必要と考えている。