寄稿

土壌・地下水環境保全の進展によせて


(社)土壌環境センター 前常務理事  美坂 康有

 土壌環境センターの発足とともに今日までささやかながら微力を尽くしてまいりました。実際にはその前身の土壌浄化フォーラムの発足からのことですから9年半ばかりになります。その間、多くの方々にお世話になりました。厚くお礼申し上げます。
 その間、時代は大きく変化を遂げています。社会全体としてはバブル崩壊とともに経済的難問の連続で未だに根本的解決に至らず景気は低迷しています。その中で土壌・地下水環境問題は徐々に世間の関心を集め、最近では新聞・雑誌・テレビその他のマスメディアの取り上げる機会が激増していることもあって、汚染地所有者や関連地方公共団体では汚染調査・浄化対策に関する適切な情報公開を積極的に行う傾向が目立ってきています。今後ますますその傾向は強化されると考えられます。
 一方、国ではこれらの状況を勘案して土壌環境保全の制度のあり方に関する検討会を発足させ、制度問題に本格的に取り組み始めています。そのほか主要地方公共団体でも条例・要綱の改定充実が進められています。
 さらに対策技術面では約10年前から始まった本格的な海外の調査・対策技術の導入、国内での実証、実際の汚染サイトへの適用等により技術蓄積がなされました。このような経験を重ねることにより最適設計や経済性の改善等が進められてきました。土壌環境保全事業への新旧の参入企業を中心として新技術の開発・実際適用も盛んに行われるようになって技術開発と適用の新たな時代を迎えようとしているかのようです。
 海外諸国においても土壌環境保全の政策的展開や技術の動向に変化が絶えません。オランダにおける法律の改正、ドイツにおける連邦法施行、米国におけるスーパーファンド法の停滞等ありますが、全体的には最低限のリスク回避とそれに伴う最低限のコスト負担の方向を目指しているように見受けられます。EU各国間でのネットワークシステムがいくつか活動していますし、米・独政府間では実用化技術実証協力プロジェクトを実施している等、欧米各国間での情報交流は迅速・豊富のようです。費用低減と最低限のリスク回避の観点ではpassiveな浄化技術やnatural attenuation等への傾斜がその傾向の顕著な証左であると思われます。
 日本の土壌環境保全に必要な技術展開が初期は海外の技術導入によって加速されたのは紛れもない事実でありますが、上記のような海外諸国における種々の変化のすべてが今後も先行例として日本に定着するかどうかについては疑問の点も年毎に増えていくと考えられます。すなわち、事例の蓄積により経験工学的要素の高い土壌環境保全技術は今後日本国の事情に適合性の高いことが求められるものと考えます。特に土壌環境保全ビジネスのあり方には日本的発想でニーズに合致する進め方が必要と考えます。海外との関係では、私のつたない経験では日本の土壌環境問題を真剣に知りたい真の強い希望(儀礼的希望は別)に直面したことはほとんどありません。将来は海外諸国にとって有益な土壌環境保全情報を発信する機能を当センターが保持すべきと考えています。
 5月末で退任、後任には知野氏が常務理事に就任いたしました。ご指導ご鞭撻ご協力の段よろしくお願い申し上げます。