環境省からのメッセージ

私の第一印象は……
小柳 秀明 環境省環境管理局水環境部 地下水・地盤環境室長  小柳 秀明

プロフィール
1954年 東京都生まれ
1977年 東京大学工学部都市工学科卒業
1977年 環境庁入省 
     大気保全局、水質保全局、環境保健部、財団法人クリーン・ジャパン・
     センター等を経て1997年9月から2000年1月まで中国国家環境保護
     総局日中友好環境保全センター高級顧問
2001年 2月より現職

 「2001年2月1日付けで地下水・地盤環境室長に就任しました小柳秀明です。前任者同様土壌環境センター会員の皆様方と相連携して地下水・土壌・地盤環境等の環境改善に向けて……」とするのが通常の就任の挨拶文だろうが、こんなことを書いてもちっとも面白くないし、誰も読む気もしないだろう。人の印象にも残らないことを書いても書くだけ無駄である。人事異動で人が交替したことを紹介するのが目的なら、人事異動欄で淡々と紹介してもらえばよい。ということで、私はこの欄を借りて現在の行政に関する「私の第一印象」を好き勝手に述べさせてもらうことにする。
 なぜ「第一印象」を取り上げるのか。印象でものを評価するなと叱責を受けるかも知れないが私はいつも第一印象を大事にしているからである。これは一種のカンというか、直感的なものの感じ方であるが、この第一印象は常に2つの重要な示唆を与えてくれる。その第1は「ものの本質の筋道というか、正しい筋道を示唆する。」という点である。もちろん正しいというか客観的な情報が入ってきて正確に判断することが出来うるという前提の上だが、この状況はちょうど小高い丘の上に立って、その下には木々が茂り道筋は見えないが遙か向こうにゴールが見える状況に似ている。私はいつもそのようなイメージを持っている。私たちの仕事は、行政の仕事も実際に現場で問題に直面しこれに対応する方々の仕事も皆玄人仕事である。玄人仕事の苦労は当初想定しなかったケースや少数の特殊なケースにどう矛盾なく対応していくか、不利益者を出さないとか対応に漏れがないようにするといった気遣いである。そしてだいたいこのような仕事上の苦労に時間の大半を割かれ、そのうち、これらに対応するのがそもそもの自分の仕事と思い始め、“幹より枝葉を大事に”し始めているのである。そんなことは皆言われなくてもわかっているつもりであるが、それでもやっぱりハマるのである。さて、重要な示唆の第2であるが、これは「フツーの人がどう感じているのかという国民の感じ方を示唆する。」という点である。フツーの人がどのように感じているのかわからなくなると当然どのように説明し理解を求めるのかも見えなくなり、そのうちこのことがお荷物になってきてともすれば「素人は黙っていなさい。」という高慢さに変わっていく。
 前置きがだいぶ長くなったが、まだ前置きがある。ここでは簡単に2つ述べる。私は5年半ほど環境省(環境庁)を離れて仕事をしていたということと、そのうちの3年半は中国で仕事をしていたということである。外から環境省の、日本の行政を眺めることによってその感覚は第三者的なものにより近づき、あるいは外国人のそれに近いものになったかも知れない。
 さて、私の第一印象の一番目は“きめ細やかさ”、これは決して誉めているのではない。本質というか主流から逸れ出している懸念を表明しているのである。“枝葉の手入れに余念がない”状況という表現が適当かも知れない。
 二番目は相変わらずの“木を見て森を見ず”状態。木を見る人と森を見る人の分業状態で意識上の交流はあっても実行はなかなか無し。
 三番目は“リーダー不在”、人々の本音を代表し、必要なときには大胆に枝葉をばさばさ切り落として進むリーダーが生まれにくい世の中になってしまっていることだ。仮に生まれたとしてもすぐに足を引っ張られ失脚する社会システムが日本では既に完成しているから誰もこのようなリーダーになりたがらない。
 実はこの3つの印象は私が中国の政治というか行政、特に環境行政を見て感じた印象とすべて陰陽を為すものである。中国の国家環境保護総局(日本の環境省に相当する。)の職員総数はわずか200人あまり、地方に環境保護組織があるとはいえ、これだけのスタッフで、日本の10倍の人口、26倍の国土面積を持ち、日本よりはるかに多様性を持った環境問題に日夜対処しなければならない彼らには、強いリーダーのもと何が重要か、本質かを見極め、本道を強力に邁進する使命を背負わされていた。
 書いているうちに何かまとまりのないものになり紙面も尽きてきたが、とにかく私は地下水・土壌・地盤環境の世界においても第一印象を大事にして仕事をしたいということを自分で忘れないようにしたい。議論も大いに結構、皆様方の訪問を待っています。