特別寄稿

兵庫県及び県立公害研究所における地下水汚染対策への取組み


吉岡昌徳 兵庫県立公害研究所 第3研究部長
吉岡 昌徳

プロフィール
1945年 兵庫県生まれ
1970年 姫路工業大学大学院工学研究科修士課程終了
1970年 兵庫県立公害研究所
2000年 4月より現職


1. 兵庫県下の地下水汚染の概要
 兵庫県では、昭和58年に発覚した太子町における地下水汚染を経験したことから、比較的早くから地下水汚染対策に積極的に取り組んできた。水質汚濁防止法に基づく地下水の水質測定をはじめとして、土壌・地下水汚染の回復対策を推進するため、「地下水・土壌汚染防止対策調査事業」や阪神・淡路大震災により倒壊したクリーニング事業場での浄化対策を目的とした「土壌汚染地域回復モデル事業」等を実施している。これらの事業については、土壌汚染等回復事業検討委員会(委員長:村岡浩爾大阪産業大学教授)を設置して、調査方法や浄化方法、結果の評価、あるいは浄化対策への支援策等に関して検討・助言をいただきながらすすめている。
 平成11年度の兵庫県の地下水質測定結果によると、概況調査20地点、定点調査194地点のうち、環境基準を超過した地点は、鉛1地点、砒素2地点、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素10地点、ふっ素10地点であり、過去に汚染が発見された井戸の周辺を対象とした汚染地区定期モニタリングでは、17市7町の49地区(186地点)のうち、鉛1地区(2地点)、砒素7地区(12地点)、有機塩素系化合物19地区(28地点)で環境基準を超過していた。
 有機塩素系化合物による汚染地区については、平成9年度より「地下水・土壌汚染防止対策調査事業」により、地下水、土壌ガス、土壌ボーリング調査等の詳細な調査を実施し、汚染範囲の確定や原因究明を行うとともに、原因者に対し、浄化技術指導等を行っている。
  また、阪神・淡路大震災により倒壊のあったクリーニング事業場での地下水・土壌汚染については、震災による漏洩が原因と考えられることから、被災者救済の考え方に基づき、国の補助を得て、県と地元の市町が共同で3箇所を対象に汚染の浄化を行ってきた。いずれの個所も表層土壌の汚染が顕著であり、地下水位が数メートル程度という浅層汚染であったことから、土壌ガス吸引法と地下水揚水法の併用処理を行うこととし、平成8年11月から平成11年度末にわたる約3ヵ年の浄化対策を行った。各々4,000〜6,000時間の処理を行い(昼間のみの装置稼動)、それぞれ7.33kg、17.25kg、44.01kgのテトラクロロエチレンを除去することができ、2箇所については、平成11年度末で同事業での対策を終了し、1箇所については、建屋下に残留している汚染物質を除去するため、建屋下に水平井戸を設置し、浄化を継続している。


2. 公害研究所の取組み
 県立公害研究所は、兵庫県県民生活部に属しており、県の環境施策を適切に進める上で必要となる科学的知見や検証を得るための科学的・技術的中核機関としての役割を担うべく設立されている。土壌・地下水汚染に関しては、地下水質のモニタリングをはじめとして、県が実施する各種の調査等の実施、もしくは、技術的支援を行っている。
 地下水質のモニタリングにおいては、県の実施する地点について(政令市等実施分を除く)環境基準項目および要監視項目の大部分を分析している。また、県が実施している調査事業では、地下水や土壌の分析はもとより、土壌ガス調査等においては、調査個所の設定、試料採取、ガス分析、結果解析等を一貫して実施し、汚染範囲や汚染原因の把握、浄化対策技術の策定などの根拠資料を提供してきた。また、浄化対策を行っている事業場に対する技術指導も積極的に行っている。
 土壌・地下水汚染は、場所や地域によりその特性が大きく異なることが多く、状況に応じた調査の方法や浄化対策手法を選定することが重要である。地域に密着した課題に対処することが自治体の研究機関に課せられた重要な役割のひとつであり、土壌・地下水汚染問題はその典型的なものである。そのため、日頃から、新たな分析手法や調査技術の開発と汚染現場への適用などを積極的に図るとともに、国あるいは他自治体、民間のかたがたとも連携することにより技術力の維持・向上を目指し、また、幅広い情報の収集・発信機能の向上にも力を注いでいる。
 なお、土壌環境センターの会員の皆様には、これまでも調査の企画や実施等において御協力を願っているところであり、今後一層連携を強化していきたいと考えている。