特別寄稿

埼玉県における地下水汚染対策について


埼玉県環境防災部
参事兼大気水質課長

安 井 克 之

プロフィール
1944年 埼玉県生まれ
中央大学経済学部
1998年 埼玉県大気水質課長


1 常時監視
 埼玉県は、昭和63年から県内を南北の3地区に分け地下水の水質調査を開始した。平成元年には水質汚濁防止法に基づき常時監視が義務付けられたところから、山間部を除いて県内を4kmメッシュで概ね172区画に分けて、地下水質の監視を行っている。常時監視では、4kmメッシュごとの概況調査、概況調査で環境基準を超過した井戸の周辺井戸調査、過去に環境基準を超過した井戸についての定期モニタリング調査を実施している。  埼玉県、浦和市等政令6市及び建設省が実施した平成11年度の常時監視の結果では、70市町村175ヶ所のうち砒素が3ヶ所、トリクロロエチレンが1ヶ所、テトラクロロエチレンが2ヶ所、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素が25ヶ所で環境基準を超過した。これらの周辺井戸調査では、砒素が22ヶ所中4ヶ所、トリクロロエチレンが53ヶ所中6ヶ所、テトラクロロエチレンが53ヶ所中15ヶ所、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素が172ヶ所中90ヶ所で環境基準を超過した。また、定期モニタリング調査では、トリクロロエチレンが11ヶ所、テトラクロロエチレンが5ヶ所、砒素が8ヶ所、シス-1,2-ジクロロエチレンが1ヶ所で環境基準を超過した。

2 一斉調査
 平成9年9月、愛知県の東芝名古屋分工場でトリクロロエチレン汚染が判明して以来、全国各地で地下水汚染の報道がなされた。埼玉県でも、東芝深谷工場から地下水汚染の報告があり、所沢市でトリクロロエチレンの環境基準の140倍に相当する新たな汚染が判明したこと等から、10年7月から12月にかけて、県下のトリクロロエチレン取扱い事業所を対象に一斉調査を実施した。 一斉調査は、水質汚濁防止法に基づく6政令市も足並みをそろえて、概ね450の事業所を対象にヒアリング調査、検知管による土壌ガス調査及び事業所の井戸水調査を実施し、12事業所で地下水の環境基準を超過し、106事業所で土壌ガスが検出され、これを11年1月に県政記者クラブでの発表とインターネット・県ホームページへの登載により公表した。公表は、記者レクチュア終了直後(登載時間が表示される)インターネットのホームページに登載され、県民は新聞が配布される前に情報を得ることができる。ホームページの利用は、本来の対象である県民より、むしろ地下水のコンサルタントの方が多いようで土壌環境センターの会員からも問い合わせがあった。地下水汚染が判明した場合は、井戸使用者に速やかに連絡し保健所と市町村で飲用指導を行うとともに汚染井戸の周辺住民に対しては、回覧板や市町村広報紙等により情報を提供し注意の喚起を図っている。  県では、環境基準を超過した事業所等に対する指導方針等を定めるために埼玉県地下水汚染対策検討委員会(委員長:高村弘毅立正大学教授)を設置し、検討、助言をいただき、1月7日「トリクロロエチレンによる地下水汚染対策に係る基本方針」を決定した。この基本方針では、地下水質汚染が判明した場合の県が行うべき周辺井戸調査及び周辺事業所調査に関すること、環境基準を超過した事業所に対する自主調査の指導に関すること等を定めている。県環境管理事務所(5本所、2支所)は、この基本方針に基づき事業者に自主調査や浄化対策の実施を要請し、予めそれぞれの計画を提出するよう指導している。

3 広域地下水汚染調査
 県では、一斉調査で環境基準を超過した事業所の周辺井戸調査を11年2月から4月まで実施した。その結果、熊谷・深谷地域、飯能市川寺地域、同市新光地域及び東松山市神明町地域の4地域において1km以上にわたる広域汚染が判明し、これを公表した。11年度に、汚染源と汚染機構を解明するため、熊谷・深谷地域について広域調査を委託で実施し、12年度は飯能市川寺地域について実施中である。

4 事業所指導
 県では汚染が判明した個々の事業所を適切に指導するため、県大気水質課、環境管理事務所、環境科学国際センター及び関係市町村で構成する「土壌・地下水汚染対策検討会議」を設置している。検討会議では県に提出された自主調査計画、浄化対策計画について事業者、コンサルタントから説明を聞き、具体的な助言、指導を行っている。11年度は30事業所を対象に40回の検討会議が開催された。その他の指導と併せて、81事業所を指導中で40事業所から調査計画書又は調査報告書が提出されている。検討会議では、住民とのリスク・コミュニケーションや企業の社会的責任から、地下水汚染について事業者自ら公表するよう要請しており、富士ゼロックス等が既に公表している。公表の方法としては、記者発表のほか年次的な環境報告書やホームページへ記述することを提案している。土壌環境センターの会員の皆様には、汚染が判明した場合、調査の施主である事業者に自治体あて速やかに報告するよう助言することをお願いしたい。

5 今後の対応
 広域地下水汚染調査を委託で行っているが仕様を一旦決めると小回りが効かないので、迅速に、かつ、柔軟に調査が出来る手法を検討している。 また、地下水・土壌汚染対策の新たな規制を盛り込んだ埼玉県環境保全条例(仮称)を13年6月議会に提案する予定で、作業を進めているところである。  米国のノンフィクション作家ジョナサン・ハーが「シビル・アクション」で描いたウォーバーンの悲劇を生じさせないために、地下水・土壌汚染を速やかに改善・修復することが我々の課題となっている。



埼玉県のホームページアドレス http://www.pref.saitama.jp