環境庁からのメッセージ

「水の惑星」の水問題
環境庁水質保全局
地下水・地盤環境室長

岩 田 元 一

プロフィール
1953年大阪府生まれ
1979年京都大学大学院工学研究科衛生工学専攻
     修士課程終了
1979年環境庁入庁
1999年7月から現職


 21世紀は「環境の世紀」になるといわれています。地球温暖化をはじめとする様々な環境問題の中、「水」も人類が取り組むべき重大な課題の一つになることは、国際的にも認識が一致しているように思えます。
 このことは、今年の3月、オランダ・ハーグで開催された「第2回世界水フォーラム・閣僚会議」に参加して、改めて思いを強くしました。
 世界水フォーラムは、「世界水会議」の提唱により、3年前にモロッコのマラケシュで第1回が開催されたものです。今回は、前回以降策定の準備がなされてきた「世界水ビジョン」及びそれに付属する「行動の枠組」を提示するとともに、地域別、水利用別、関係グループ別等の分類の下に各種のテーマに係るセッションを開催することにより、水に関する社会的関心を高めることを主な目的として開催されました。
 閣僚会議は、世界水ビジョン及び行動の枠組について政治的なコミットメントを確保することを主な目的として、フォーラムに併せて開催されたものです。会議では水の問題が幅広く議論され、採択された宣言も「21世紀の水の安全保障(water security)に関するハーグ閣僚宣言」と呼ばれるものになっています。
 閣僚宣言では、我々が直面している主要課題として、次の7つがあげられています。
 (1)基本的ニーズの充足(安全で十分な水の確保等)
 (2)食料供給の確保(食料生産のための水の効率的な利用等)
 (3)生態系の保全(生態系の健全性の確保)
 (4)水資源の共有(河川流域管理等を通じた用途間協力の推進等)
 (5)リスクの管理(洪水、干ばつ、汚染等からの安全の確保)
 (6)水の価値評価(経済的、社会的、環境的及び文化的価値を反映する形での水の管理)
 (7)水の賢明な統治(公衆の関与を含む良好な統治制度の確保)
 これらの課題を見るだけでも、次世紀において解決すべき水問題の大変さが分かります。
 私は、現在、地下水の水質保全や地盤沈下の防止などを担当しています。地盤沈下は地下水の過剰採取が原因となって生じるものであるため、仕事の内容は、地下水の質と量の両方を適切に管理することと言い換えてもいいかもしれません。
 米国ワールドウォッチ研究所の『地球白書2000-01』では、食糧問題を捉える観点の一つとして水問題を扱っています。この中で、データの入手が可能な主要地域における地下水の過剰揚水量(自然の涵養量を上回る汲み上げ量)は合計1,600億トンを超えるという推計値が紹介されています。1トンの穀物を生産するのに約1,000トンの水が必要とされるので、これは1億6千万トンの穀物に相当します。この量は、米国の穀物生産量の半分であり、消費量から見れば、世界の60億人のうち4億8千万人分に相当すると説明されています。これだけの穀物が、持続可能でない形での地下水利用によって生産されていることになります。
 地下水の過剰な汲み上げは、地盤沈下を引き起こします。また、地下水位の低下によって地下の砒素が含まれる水を汲み上げることになったバングラデシュのような例もあり、水質保全との関係も重要な課題になります。
我が国は、幸い、水に恵まれた国です。紛争の種となるような国際河川もありません。このため、世界の水問題に対する感覚がつい鈍くなってしまいます。
 次回の世界水フォーラムは、2003年3月に我が国で開催されることが決まっています(場所は未定)。この会合も含め、今後、世界の水問題について議論することとなる機会は増えていくと思います。
 いうまでもありませんが、土壌は、地下水の涵養の場であり、地球上の水循環において重要な役割を果たしています。こうしたわけで、『土壌環境ニュース』に敢えて「水」の問題を書かせていただきました。多少なりともご参考になれば幸いです。