新 年 挨 拶

21世紀世代に負の遺産を残さないために市街地土壌汚染対策の異なる前進を
(社)土壌環境センター 
運営委員会委員長

大野 正人

 あけましておめでとうございます。
 新年を迎えるに当たり、私の所感の一端を申し述べ、新年のご挨拶と致します。
 昨年、縁あってセンターの運営委員会委員長を拝命することになりました。正直なところその重責を全うするのは少々、荷が重い感じがしておりますが、この間ささやかながら努力させていただく中で、土壌環境対策の在り方や土壌環境センターとして取り組むべき方向について感じ、また考えたことについて述べてみたいと思います。
 昨年6月に制定されたダイオキシン類対策特別措置法は、市街地土壌汚染対策に関する法でもあり、その意味でこの法制定は画期的な出来事と思っております。とりわけ土壌の直接摂食のリスクについての科学的な知見を踏まえて対策要件が検討されていることは我が国でも始めてのこととして大変意義深いことと思います。少なくとも今後の市街地土壌汚染対策に係る法制度の整備に向けた礎となるものと思われます。
 しかし今回の法に基づく対策要件の議論を見ていますと、平成8年5月の水質汚濁防止法の改正による地下水汚染対策の発動要件の時と同様にその要件は非常に限定的であり、土壌環境ビジネスを期待する者にとって必ずしも手放しで喜ぶべき内容ではないことも明かでした。改めて法の持つ意味、特に法的な対策責任が科せられることの重さを感じざるを得ませんでした。我が国では、法による対策が命ぜられることは犯罪に等しい非常に重い意味を持つので、法の執行は相当に限定的にならざるを得ないのでしょう。土壌環境基準を超えた状態でも、よほど具体的な被害ないしは健康影響への恐れが認定されない限り法上の対策責任は科し難いのだと思います。その点は一定の汚染濃度を越えた場合に法の強制を発動するオランダやドイツ等とは根本的に異なるように思われます。
 したがって実際には法的な対策要件に該当する市街地土壌汚染地は、非常に少なく、恐らく法の対策要件に適合しない土壌汚染地がほとんどになるのではないかと思われます。そのような汚染地を抱える関係者は、法の強制を受けないものの土壌環境基準の趣旨からできるだけ速やかに基準を達成する努力が求められるといった中途半端な状態に置かれることになろうかと思われます。
 汚染地の関係者は、土壌汚染地の対策の必要性は理解していても、土壌環境基準まで回復するには費用がかかりすぎるため、このままでは水面下で汚染土を処置する可能性が高いといえます。汚染地を抱えている関係者にとってはむしろそのような形の方が好ましいかもしれませんが、社会的な公平や正義からみて避けるべき事態といえます。そのような闇から処置がはびこる事態をさけるためにも、土壌環境基準を対策の目標としつつ現実的かつ妥当な対策についてのルール化を図ることが急務であると思われます。
 平成8年に社団法人土壌環境センターが設立され、既に4年が経過しますが、土壌汚染に関する社会的な関心の向上と対策への期待が膨らむ一方で、動かない現実との落差に多くの会員の方々は戸惑を感じつつ法律が制定されれば現実が動くのではないかと期待されているかも知れません。しかし市街地土壌汚染対策の前線は、恐らく法の規制を受けない汚染地にあるといえます。土壌環境センターは、そのことを十分に認識して今後の活動方針を立てる必要があると思います。とりわけ汚染地を抱えている関係者との対話を進め、また環境庁をはじめとする関係省庁と連携しつつ、そのような法の規制を受けない汚染地の対策を促進するために、関係者の合意に基づく、自発的な対策のルール化を早急に確立することを目標にして、全力で取組んでいく必要があると思います。
 新しい年の始めに当たり、期待される土壌環境センターの役割と運営委員長としての重責を改めて思い起こし、今後の土壌環境対策の促進ならびにセンターの発展に向けて全力で取組む所存であります。最後に皆様方のご健勝と益々の発展を祈念しまして、念頭に当たっての所感とさせていただきます。