「GEPC技術標準1 埋め戻し土壌の品質管理指針」(GEPC・TS-01)(以下 本技術指針)は、一般社団法人土壌環境センター(以下 センター)の第1号技術標準として、平成18年12月に制定され、令和元年5月に廃止されました。ここでは制定から廃止に至る経緯等について解説します。
1. 制定から廃止に至る経緯
1.1 制定(平成18年12月)
汚染土壌の掘削除去(以下 掘削除去)における埋め戻し土壌の品質については、土壌汚染対策法施行時の「土壌汚染対策法施行規則」(平成14年環境省令第29号)では「汚染土壌以外の土壌」(平成22年4月法改正後は「基準不適合土壌以外の土壌」)とされていました。しかし、実際の運用に際しては様々な具体的対応が要求され、次のような問題も起こっていました。
- ①
- 埋め戻し土壌の汚染のおそれに応じた分析頻度が明示されていないため、分析頻度を決める場合に、当事者同士の意見が異なり、調整に時間がかかることがある。
- ②
- 明らかに汚染のおそれがないと判断される土壌であっても、100 m3に1検体の分析頻度を求められることがある。
- ③
- 自然地盤の入手先で実施されている分析については、分析頻度、分析方法がまちまちである。
そこで、埋め戻し土壌が「汚染されていない土壌」であるとみなすことができるか否かを判断するための手法として、種類や汚染のおそれに応じて望まれる最低限の分析頻度と分析項目を提示するため、本技術指針を制定しました。
1.2 土壌汚染対策法の改正に伴う改定(平成24年4月)及びガイドライン改訂第2版発行に伴う正誤表の公開(平成24年12月)
平成22年4月1日から改正土壌汚染対策法、改正土壌汚染対策法施行令、改正土壌汚染対策法施行規則が施行され、「環境省水・大気環境局土壌環境課:土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドライン 暫定版が発行されました。さらに平成23年7月8日には、再度改正された土壌汚染対策法施行規則が施行され、平成23年8月2日に「環境省水・大気環境局土壌環境課:土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドライン 改訂版」が発行されました。それらの改正と不整合を生じないよう、平成24年4月に本技術指針の改定を行いました。
その後、平成24年8月28日に「環境省水・大気環境局土壌環境課:土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドライン 改訂第2版(以下 ガイドライン改訂第2版)」が発行されました。これにより、法第16条認定調査方法が緩和されたことから、将来、認定調査を行うことを想定する場合に不足する部分についての記載を加えることとし、平成24年12月に新旧対比表及び正誤表を公表しました。
1.3 販売停止(平成31年3月)
平成31年4月1日施行の土壌汚染対策法施行規則において、「要措置区域外から搬入された土壌を使用する場合における当該土壌の特定有害物質による汚染状態の調査方法」が環境大臣により定められ(平成31年1月29日 環境省告示第6号)、本技術指針の内容が大幅に取り入れられました。この告示に伴い、本技術指針は当初の役割を終えたと判断し、平成31年3月31日をもって販売を停止しました。
1.4 廃止(令和元年5月)
平成31年4月1日の改正土壌汚染対策法の施行に伴い、令和元年5月14日付で本技術指針を廃止としました。
2. 補足説明
2.1 制定・改定時の審議内容
2.1.1 構成について
センターで初めて技術指針として文書化するに当たり、完成形の構成イメージやJISとの整合をとりながらまとめる方法等が不明確でした。当初はJIS Z 8301「規格票の様式及び作成方法」に準拠しましたが、構成が本技術指針の内容を表現するためには不向きであり、難解な文書となることから、実用的な類似規格について検討し、技術指針(自然地盤の土壌、既利用地等の土壌、浄化土壌)の構成はJIS K 0060「産業廃棄物のサンプリング方法」に倣うこととしました。また、解説の構成はJGS「環境化学分析のためのサンプリング」に倣うものとし、区分の表示方法はJIS Z 8301に倣うこととしました。
2.1.2 第一種特定有害物質を対象とする場合について
ガイドラインでは5地点混合方式による確認方法のみ例示されていました。しかし、第一種特定有害物質は揮発性があり、5地点混合方式の試料採取は適切ではありません。そこで、第一種特定有害物質を対象とした試料採取箇所数及び前処理方法については、1回の分析試料について1点からの採取とし、風乾・篩い分けは行わないこととしました。
2.1.3 人為汚染がない自然地盤の土壌の分析頻度について
人為汚染がない自然地盤から発生する埋め戻し土壌については、JIS M 8100「粉塊混合物-サンプリング方法通則」のインクリメントに準拠した採取頻度を検討しましたが、自然地盤では同一地層は均質なものであるとみなすことが前提であるため、JIS K 0060「産業廃棄物のサンプリング方法」表2備考(3~5 インクリメント)を引用し、原則として土量に係らず5点から採取して混合することとしました。しかしながら、埋め戻し土壌の品質を維持するためには分析頻度についてある程度の量的な制限を設ける必要があると考え、わが国における最小限の頻度として「千葉県土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例(平成9年千葉県条例第12号)」(以下 千葉残土条例)等の分析頻度を参考としました。
2.1.4 埋め戻し土壌の材質・性状について
埋め戻し土壌の材質・性状としては、埋め戻される地盤の透水性や地下水流向を大きく変えないことが望ましいところです。また、掘削深さが第二帯水層まで及んだ場合に難透水性の地層の復元が必要かどうかも検討しました。しかしながら、実際の現場では、敷地内で発生する基準に適合した土壌を埋め戻しに用いることもあります。土質まで規定することは、そうした現状に混乱を生じさせるおそれが考えられるため、埋め戻し土壌の材質・性状は、本技術指針では規定しないこととしました。掘削前の自然状態の地質・土質や、掘削深度が地下水位より高いか低いかによっても考慮する必要がありますが、土質・性状については、国土交通省通達「発生土利用基準について」(平成18年8月10日 国官技第112号、国官総第309号、国営計第59号)や「建設発生土利用技術マニュアル」(第3版、平成16年9月1日発行、独立行政法人 土木研究所)等を参考とすることとしました。
なお、掘削深さが第二帯水層まで及ぶ場合については、平成23年環境省告示第53号四を参考とすることとしました。
2.1.5 試料採取方法について
実際に埋め戻しに用いる土壌は、状態が様々であると考えられるため、試料採取方法や試料採取位置の決定方法は、本技術指針では規定しないこととしました。これらについては、指定調査機関等が、各々状況に応じて適切な方法で採取することとしました。
2.2 適用範囲及び定義の概要
2.2.1 適用範囲
本技術指針では、不溶化処理を施して汚染状態に関する基準(以下 基準)に適合させた土壌や改良土・建設汚泥の脱水物等の処理物、その他土壌ではないもの等は埋め戻し土壌の対象としませんでした。
2.2.2 埋め戻し土壌の種類と定義
本技術指針における埋め戻し土壌の種類は、「自然地盤の土壌」、「既利用地等の土壌」、「浄化土壌」、「法認定済土壌」の4種類に分類し、さらに各種土壌を数種に区分しました。各区分は、埋め戻し土壌の発生場所等における現在及び過去の土地利用状況や地質等自然由来による基準不適合に関する資料等調査を行い、その結果から考えられる基準不適合となるおそれに応じて、表1に示すとおり定義しました(環境省告示第6号「要措置区域外から搬入された土壌を使用する場合における当該土壌の特定有害物質による汚染状態の調査方法」(平成31年1月29日)と対比)。
2.2.3 判断基準
汚染のおそれの判断は土壌汚染対策法の考え方に従うものとし、汚染の有無の判断基準は土壌汚染対策法で規定されている汚染状態に関する基準(土壌溶出量基準及び土壌含有量基準)を用いるものとしました。
2.2.4 試料の取扱及び分析方法
試料の保存等取扱及び分析方法は以下のとおりとしました。
- 1)
- 土壌溶出量の分析試料の取扱及び分析方法は、土壌溶出量調査に係る測定方法(平成15年 環境省告示第18号)による。
- 2)
- 土壌含有量の分析試料の取扱及び分析方法は、土壌含有量調査に係る測定方法(平成15年 環境省告示第19号)による。
2.2.5 認定調査を行うことを想定する場合
平成22年4月1日から施行された改正土壌汚染対策法及び平成24年8月28日に発行された「ガイドライン改訂第2版」により、法第16条認定調査方法が緩和されました。このため、将来認定調査を行うことを想定する場合に、本指針で不足する部分について、以下のとおり加えることとしました。
- 1)
- 自然地盤の土壌については、認定調査を行う場合に特定有害物質全項目の分析を行うこととなるため、自然地盤S種と自然地盤A種を区分せず、自然地盤B種以外は自然地盤A種となることとし、発生場所ごとに、5,000 m3以下ごとに分析を行うこととしました。自然地盤B種は900 m3以下ごとに分析を行うこととしました。
- 2)
- 既利用地の土壌については、認定調査を行う際に「汚染のおそれが少ない土地の部分の土壌」に分類されるよう、特定有害物質全項目の分析を行うものとしました。また、既利用地B種については900 m3以下ごとに分析を行うこととしました。
2.3 留意事項
2.3.1 残土条例との整合
土砂を堆積する場合や掘削・搬出する場合の分析項目が都道府県条例等により本技術指針の項目以外にも規定されている場合には、その条例で規定されている分析項目についても分析を行うこととしました。逆に、含有量について規定されていない条例等、本技術指針のすべての項目を網羅していない場合には、当該条例等を網羅した上で、本技術指針にも従うこととしました。
2.3.2 記録の保管と承継
認定調査や土壌汚染状況調査の追完、また、詳細調査を埋め戻し後に実施する際は、記録が不明確な場合に調査内容が過大となります。将来にわたり法の調査を行わない場合もありますが、埋め戻し土壌の濃度や深度等に関する記録の保存と承継が重要です。