特別寄稿
「特別寄稿「地下水汚染の未然防止のための
水質汚濁防止法の改正について」


宇仁菅 伸介
環境省水・大気環境局
地下水・地盤環境室
宇仁菅 伸介

プロフィール
平成22年7月1日より現職

1.はじめに

 地下水は、一般に水質が良好で、水温の変化が少ないこと等から、我が国では、古来、身近にある貴重な淡水資源として広く利用されてきました。 現在でも、都市用水(生活用水及び工業用水)の使用量の約25%を地下水に依存しています。
 しかし、地下水は河川等の表流水と比べ、一般に流動が緩やかで、いったん汚染されると、多くの場合、自然の浄化作用による水質の改善、回復には長期間を要します。 また、人為的に水質の改善を行う場合でも、一般に多額の費用と時間を要するため、改善、回復がなかなか進まないのが現状です。
 これらのことから、将来にわたって地下水の水質を効果的に保全していくためには、汚染を未然に防止することが重要です。

2.水質汚濁防止法改正の経緯

 平成元年の水質汚濁防止法(以下「水濁法」という。)の改正により、有害物質の地下浸透規制の規定を整備する等、 地下水汚染対策を進めてきたにもかかわらず、近年においても、工場・事業場が原因と推定される地下水汚染事例が毎年継続的に確認されています。 環境省では、平成21年度に、全国の都道府県及び水濁法の事務を実施している政令市に対するアンケート調査を実施し、 その後も、追加的な調査を実施して、汚染原因等の実態を把握してきました。
 その結果等を踏まえ、環境省では、平成22年8月に中央環境審議会に対し、「地下水汚染の効果的な未然防止対策の在り方について」諮問し、 これを受け、中央環境審議会水環境部会の地下水汚染未然防止小委委員会(委員長:須藤隆一東北大学大学院工学研究科客員教授)において審議が進められました。 パブリックコメント手続きを経て、平成23年2月15日に、中央環境審議会会長から最終的な答申が環境大臣に提出されました。

3.改正水濁法の概要

 環境省では、中央環境審議会の答申を踏まえ、「水質汚濁防止法の一部を改正する法律案」を取りまとめ、同法律案は平成23年3月8日に閣議決定されて国会に提出されました。 国会での審議を経て、同法律案は6月14日に成立、6月22日に公布されました。
 改正後の水濁法(以下「改正水濁法」という。)の主な内容は以下のとおりです。

(1)届出義務の対象となる施設の拡大
 有害物質を貯蔵する施設(有害物質貯蔵指定施設)の設置者は、施設の構造、設備、使用の方法等について、都道府県知事等に事前に届け出なければならないこととする。 有害物質使用特定施設で、排水の全量を下水道に排出するためこれまでは水濁法に基づく届出を行っていなかった施設の設置者にも同様の義務が課される。
(2)構造等に関する基準の遵守義務
 有害物質使用特定施設又は有害物質貯蔵指定施設(以下「有害物質使用特定施設等」という。)の設置者は、有害物質を含む水の地下への浸透の防止のための 構造、設備及び使用の方法に関する基準を遵守しなければならないこととする。 この基準遵守義務は、有害物質使用特定施設として従来から水濁法に基づく届出を行っていた施設(ただし特定地下浸透水を地下に浸透させる者を除く。)にも適用される。
(3)構造等に関する計画の変更命令
 都道府県知事等は、有害物質使用特定施設等の設置の届出があった場合において、当該施設が(2)の基準に適合していないと認めるときは、 構造等に関する計画の変更又は廃止を命ずることができることとする。
(4)改善命令
 都道府県知事等は、有害物質使用特定施設等の設置者が(2)の基準を遵守していないと認めるときは、施設の構造等の改善、施設の使用の一時停止を命ずることができることとする。
(5)定期点検の義務
 有害物質使用特定施設等の設置者は、施設の構造・設備、使用の方法等について、定期に点検し、その結果を記録、保存しなければならないこととする。
(6)その他
@ 既存施設に対する猶予措置
 改正水濁法の施行の際、既に設置されている有害物質使用特定施設等については、(2)〜(4)の基準の遵守義務に関する規定を改正法の施行の日から3年間は適用しないこととする。
A 施行日
 改正水濁法の施行日は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とする。(平成24年6月の見込み。)

4.今後の対応

 環境省では、改正水濁法の公布を受け、施行に必要な事項(政令、省令等)について検討を進めるべく、7月15日に中央環境審議会に対して 有害物質貯蔵指定施設の要件並びに新たに遵守が義務付けられることとなった、構造等に関する基準及び定期点検に係る事項について諮問し、 前述の小委員会において審議がなされています。
 また、これらのうち後者の構造等に関する基準及び定期点検に係る事項については、学識経験者、関係業界や地方自治体で構成する 「地下水汚染未然防止のための構造と点検・管理に関する検討会」(座長:細見正明東京農工大学教授)を設置し、技術的事項の検討を進めています。 検討の結果を踏まえ、小委員会での意見募集手続きを経て答申をいただいた後、水濁法の政省令を改正する予定です。
 さらに、制度の円滑な施行のため、構造等に関する基準や定期点検に係る事項の解説や事例等を盛り込んだ指針(地方自治体向け)及びマニュアル(事業者向け)を 策定することとしており、これらについても検討会で検討を進めているところです。 指針やマニュアルの策定後は、関係者に対する説明会を行い、制度の趣旨や内容について周知徹底を図っていきたいと考えています。
 以上について、平成24年6月の見込みである改正水濁法の施行日までに十分な余裕をもって取り組みたいと考えていますが、 引き続き、関係業界、地方自治体をはじめとする関係各位の御協力をお願いするとともに、検討の経緯について十分に注視いただき、円滑な施行に向けた準備をお願いします。


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