特別寄稿
「不思議の国ネパール」


関 荘一郎 環境省
水環境担当審議官

関 荘一郎
プロフィール
  昭和30年生まれ
  大分県出身
  昭和53年 環境庁入庁
  平成20年 財務省長崎税関長
  平成22年8月より現職

  最大の輸出品は土壌だといわれているネパール。ガンジス川の源流部に位置するネパールは、有史以来肥沃な土壌をインドに供給し続け、インドの繁栄を支えてきた。このネパールを昨年12月に訪れた。環境省が推進しているアジア水環境パートナーシップに最近参加したネパールの水環境当局と政策対話を行うためだ。

  ネパールは人口3,000万人弱、国土面積は日本の4割程度の14万km2で、海抜70mの南部から8,850mの北部まで高低差が極めて大きな国だ。観光以外に見るべき産業はなく、一人あたりのGDPは1,000ドル程度と低迷している。それでも、釈迦の誕生に代表されるように悠久の歴史を持つこの国は、なぜかゆとりが感じられるから不思議である。

  経済が停滞しているから環境は良好かと言えばさにあらず。大気、水ともに、カトマンズ市内の汚染は深刻だ。市街地でも未舗装の道路が多く、そこに車がひしめき排ガスや粉じんをまき散らすため、比較的空気が澄んでいる乾季だったが、ヒマラヤ山脈はうっすら霞む程度にしか見えない。水分野も、水道、排水処理等のインフラが不十分で、人口集中により河川水や地下水の汚染が進んでいる。国際機関等の支援により様々な対策計画が策定されているが、資金や人材等の問題から対応は遅れている。その一方で、地域住民は、井戸、雨水貯留槽、ろ過施設からなる共同利用の水供給施設を自前で建設して生活用水を確保したり、植物と土壌を利用した共同排水処理施設を設置して生活排水を処理するなど独自の取り組みを進めている。性能はともかく、現実に即した逞しい対応である。

  ヒマラヤ山脈や世界遺産をうりとする観光は外貨獲得の重要な産業であるが、外国人の入国に特段の配慮もないのも不思議だ。ネパールに向かう機中で入国カードは入手できず、到着後に空港の雑踏で記入し、入国審査は長蛇の列。日本人の感覚からは、入国にもっと便宜を図れば観光客は増加するのではと思うのだが。宿泊はヒマラヤホテル、地元のビールはエベレストビール、と一応外国人観光客を引きつけるネーミングであるが、ヒマラヤクッキーもエベレストチョコもない。安直な観光土産を売ろうとは思わないようだ。泰然とした国である。

  電力事情も逼迫している。数千万KWの水力発電ポテンシャルがあるものの、現有の発電施設は67万KWに過ぎないため、慢性的な電力不足になっている。このため計画停電しているが、滞在中も夜の6時に街は真っ暗になり、暗闇を歩いてバッテリーで点灯しているレストランに向かった。日本だと騒動になるが、現地の人は真っ暗な中を悠然と歩いている。

  これまでに多くの国を訪れたが、ネパールは別格だ。まさに「不思議の国」ネパールである。この国も大気や水の汚染に続き、いずれ土壌も問題となってくるだろう。様々な国の環境問題と対応するには、多様性を受け入れることと、現地に適した現実的な対応を提示することが重要であると改めて感じた。