社団法人土壌環境センターが健全な土壌環境の管理を行うために設立されたことは、日本の環境保全の将来に向かって大変有意義なことである。そこで、ここでは土壌環境センターの大きな発展のために私の要望を述べさせて頂くこととした。
土壌環境センターが大きく発展するためには、単に汚染土壌の修復技術といった狭い範囲の活動をするだけでなく、まず「なぜ土壌汚染を管理する必要があるのか」という問題についての論理と理念を確立し、次に、調査、改善、保護、修復などを行う「土壌環境管理の具体的な対象は何か」を整理して主張する必要があると思われる。なお、ここでいう「土壌」とは、表層土はもとより、地質や地盤ともいわれている地下水、地下空気などを含む広範な地表・地下環境を意味することを明確にしておく。
まず、「なぜ土壌環境を管理する必要があるのか」の論理と理念を確立するためには、土壌の大切さ、すなわち、土壌の機能を明確にすることから始めなければならない。表層土は微生物(遺伝子)の宝庫であり、農業生産や森林保護、生物多様性の保全にとってきわめて重要な役割を果たしている。たとえば、森林の黒ぼく土一握りには世界の人口と同じ50億程度の微生物が棲息し、植物の生育に重要な役割を果たしている。また、土壌は物質循環にきわめて重要な役割を果たしている。たとえば、貯(保)水作用、吸着・イオン交換作用、生分解作用、生合成作用などによって、水循環や汚染物質の分解、栄養塩の固定などに重要な役割を果たしている。また、水環境や大気環境との間の物質移動もある。これらのことについての情報を収集、整理し、健全な土壌の保全が地域環境や地球環境の保全には不可欠であることを主張できるようにすることが、土壌環境センターの発展にとって重要であると考えられる。
また、「土壌環境管理の具体的な対象は何か」を整理するためには、健全でない土壌環境とはどのようなもので、どこにあるのかを明確にすることから始めなければならない。健全でない土壌の一つが、土壌、廃棄物埋立地などの有害物質を含む土壌もあり、さらに農薬を多用しているゴルフ場や農地・林地、疲弊した農地・林地など、農林業との関係を含めて考える必要がある。また、地下水量の低下地域、地盤沈下地域なども対象になりうる。これらを分解、整理するとともに総合的な対応計画を策定することが、今後の土壌環境センターの発展にとって重要であると考えられる。
どくに、土壌環境は土地利用と密接に関係しており、土壌環境保全を考えた土地利用のアセスメント手法を確立することが求められている。
さらに、土壌環境は水環境と密接に関係しており、水が土壌環境を健全にすることもあり、不健全することもある。また、土壌が水環境を健全にすることもあり、不健全にすることもある。これらの関係を明確にした土壌環境の管理手法を確立することも求められている。
上記のような諸問題に対応するためには、多くの関係者との連携を進め、幅広い情報収集能力をもち、オープンで活発な議論を重ねることが不可欠である。関係者の活躍を期待したい。
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