ご挨拶

地下水を中心とした新たな水環境保全施策の取り組みについて

環境庁水質保全局
地下水・地盤環境室長 安藤 茂
(はじめに)

本年7月10日付けで着任しました安藤です。直前までは、埼玉県企業局で、水道用水・工業用水供給事業計画を担当し、地下水の過剰汲み上げに伴う地盤沈下問題や、地下水を水源とする水道事業体における自己水源の水質悪化等に対処するため、地下水から漂流水(埼玉県営水道・工業用水道)への転換を進めてきましたが、今思えば、これらは地下水・地盤環境室の業務と密接な関係があり、この貴重な経験を生かしていきたいと考えております。
また、環境庁は、大気保全局交通公害対策室と水質保全局総領規制室に続いて3度目の勤務となりますが、この間、環境基本法の制定、改正水質汚濁防止法に基づく地下水質の汚濁防止対策の制度化、地下水の水質汚濁に係る環境基準の設定など、水環境保全施策の新たな展開がみられるところです。
これらは、先輩諸氏の先見の明と不断の努力により成し遂げられたものであり、微力ながらさらに発展させていくことが跡を継ぐものの役割であると考えているところです。

(健全な水環境の確保をめざして)

水環境保全の施策展開の方向の原点は平成6年12月に閣議決定された「環境基本計画」に示されており、その基本方向は水質保全から水環境保全へと施策の幅を広げていくことであり、また、その際のキーコンセプトは「健全な水環境の確保」にあります。
そこで、環境庁では本年2月以降「健全な水環境の確保に関する懇談会」(有識者8名で編成)を開催し、水環境の中でも重要な役割を果たしている地下水を中心に流域の健全な水循環の確保に向けた基本理念と施策の方向性について議論をいただいており、本年8月にはその中間まとめを行ったところです。
この中間まとめでは、「健全な水循環」とは自然の水循環がもたらす恩恵が基本的に損なわれていない状態であるとし、流域を単位とした水循環を総合的に診断・評価し、水循環回復のためのマスタープランを策定することにより、効率的な回復施策を推進していく必要があるとしています。
懇親会では、さらに具体的な流域において推進するための手順・手法などについて検討を深め本年末を目途に最終的なとりまとめを行う予定です。

(平成10年度概算要求について)

環境庁では「水環境の回復・創造」を平成10年度環境庁重点施策のひとつとして位置づけ、「流域水環境診断基準・計画策定費 (平成10年度要求額24百万円)」により、健全な水環境を回復し、水環境の回復を図るとともに、都市気候の緩和を通じ、温暖化防止にも資するため、地下水を中心とした水環境の状況の診断基準及び回復手法を内容とするガイドラインを策定することとしています。
また、厳しい財政状況下ですが、地下水の水質保全監視、地下水質保全・管理対策調査、地盤沈下対策等についても所要額を要求しているところです。

(地下水・地盤環境対策の今後の展開について)

これからの施策展開は、関係者の「連携」が重要であることは誰もがにんしきしているところだと思いますが、実際の場面となると「連携」には困難が伴うことがあります。
例えば、地盤沈下対策は一義的には環境部局が担当ですが、水道事業者や工場・事業場に対する地下水から表流水への転換指導は衛生(水道行政)・商工部局が主体となりますし、河川表流水の確保はダムなど水資源開発を担当する水資源部局が中心となります。
このように複数部局が関係する場合、自分の部局だけではどうしようもないと消極的な立場でいることはとりあえずは楽ですが、長い目で見れば、あとで苦しむのは目に見えています。
「水環境」懇談会の中間まとめでも提言されているように、これからは「情報の公開・共有」、「役割分担」といったことを通じて、理解と連携を深めていくことが重要ではないでしょうか。

(土壌環境センターへの期待)
土壌環境センターは、研究開発の場のみならず、官と民の連携という意味においても、今後益々重要な役割を担う機関として期待しているところであり、また、地下水保全対策についても、この場をお借りして取り組みの一層の強化をお願いする次第です。