ご挨拶

環境庁水質保全局土壌農薬課 
課長 西尾 健
 
本年7月に農林水産省から出向して土壌農薬課長に着任しました。よろしくお願いします。
私は、今まで土壌と直接関連する仕事の経験はなく、また環境行政に携わるのも今回が初めてです。今のところ、業務上の出来事の全てが目新しくまた興味深いものばかりです。
土壌環境保全は、極めて専門性の高い分野であり、直接間接に関連する規制も数多く、また、対象物質や浄化の手法も多様であり、画一的な手法で問題解決を図ることは困難であると感じていますが、ただ、課題解決へのアプローチは常に最新の科学的データに基づくとの基本理念は、いずれの技術分野においても同様であり、技術行政に携わるものの一人として日々の仕事に取り組んでおります。
さて、着任後今日までの間に真剣に討議された案件を基に、今後の抱負をのべてみたいと思います。最初の課題は、本年春の廃棄物処理法の改正にともなう「中央環境真偽会廃棄物部会」における最終処分場の廃止の確認に関する課題です。この論議での一つの命題は、最終処分場を閉鎖してその跡地を一般の土地として利用するに当たっての基準は如何なるものであるかと言うものです。
即ち、有害物質を含む土壌が、一定の期間を経て、あるいは一定に処理が行われた後、これを健全な土壌であると認定できる基準とは如何なるものかという問にもつながる命題であります。 一方、従来からの命題、すなわち健全な土壌の有害物質による汚染防止対策について、現在、特に市街地の土壌汚染の唯一の判断基準となっている「土壌環境基準」を、画一的に、土地の利用形態や汚染地の周辺の状況等にかかわりなく運用すすことについて、諸外国でおこなわれているようなサイトアセスメントにもとづき対策をとる方式の導入ができないのかとの議論が盛んとなってきました。この土壌汚染のサイトアセスメントの導入の是非に関しては、土壌環境センターに委託して「土壌環境保全対策要件検討委員会」を設置していただき本格的な検討が開始されたところであり、センターに蓄積された知識・情報を結集していただきたと考えています。また、ダイオキシン等新たに土壌汚染物質の対策も重要課題となってきています。
これらの課題の解決には、土壌汚染のリスクの評価と管理について再検討が必要ではないかと考えています。従来汚染土壌のリスク評価は主として、汚染土壌から水や農作物を経由して人の健康への影響を評価してきたが、地下水の飲用利用のない都市部での土壌汚染や、毒性の強い有害物質のリスク評価に当たっては人による土壌の直接摂取が重要である場面も想定されます。「水」「大気」に比して、「土」の人の健康に対しての直接的な影響は不明確であるように思われ、このリスクの再評価をどのように進めるかは今後の課題の一つではないかと考えています。
土は地球の創成期から存在していたわけではなく、水圏の発生、生命の発生から長い間を経て植物が誕生し、岩石の風化と、動植物(生命)との相互作用の結果、地球の表面は徐々に土に覆われるようになったと言います。すなわち、何億年もの時間を経て、現在の土が生成されたこととなる訳です。まさに地球創成期以来の全ての営みの結晶ともいえる貴重な物質が土であります。
しかし、日本において、土の恩恵やぬくもりを実感する機会が減り、都市部においてはアスファルトやコンクリートに覆われその存在すら目に留まらない場合も多くなりました。10数年前に私が滞在していた地球上で一番新しい島の一つであるハワイ諸島中のハワイ島においては土は大変な貴重品であり、農用地の多くは火山れきであり、野菜栽培の可能な土の存在する地域は限られています。また、アイルランドの一部地域では畑の土は全て何百年に亘って営々と海草類を堆肥化して人間が作り上げたものであるといいます。
このような例をみるにつけ、土がいかに貴重なものであり、人間の生存に欠かせないものであり、健全な土を守っていくことがいかに重要であるかを広く一般に認識してもらうことが、土壌環境保全に係る施策を進める上で極めて重要であると思われます。
土壌環境センターにおかれては、土壌・地下水汚染に関する対策技術の調査研究、技術指導とともに、土壌とその汚染についての普及・広報活動についても一層の取り組みの強化をお願いする次第です。