〜 環境省メッセージ 〜

地下水の恵みを生かす



宮崎 正信
 環境省環境管理局
 水環境部土壌環境課
 地下水・地盤環境室長
 宮崎 正信
宮崎 正信 プロフィール
1958年 大阪府生まれ
1983年 京都大学大学院工学研究科修士課程修了
1983年 環境庁入庁
      大気保全局(環境管理局)
                大気汚染対策
                (固定発生源、自動車など)
     企画調整局    公害防止計画
     国土庁水資源部 水資源開発基本計画
     国立公衆衛生院 廃棄物研究
     水資源開発公団を経て
2003年 6月から現職

  環境省(環境庁)で働き始めてから早くも20年が過ぎましたが、環境庁時代の「水質保全局」と現在の「水環境部」を通じて初めての「水」の担当です。着任してほぼ半年の今、仕事を通じて感じていることを紹介することにします。

 自然の恵みに太古から依存してきた山紫水明の国、日本。地下水はもちろん大切な恵みのひとつであったわけです。地表の水が乏しい地域では農業も飲み水も井戸に依存することになりますし、日照りが続いても地下水は頼りになったわけです。地球上の水のうち海水が97%、淡水が3%しかないことはよく知られていても、さらに身の回りの淡水のうち、地下水がその9割を占め、河川や湖沼のような地表水よりその量は圧倒的に多いことはあまり知られてはいないのではないでしょうか。現在に至るも都市用水の3割弱は地下水に依存するのも訳あってのこと。年間を通じて安定した温度や水質はとても貴重なものであったわけです。

  近代社会になって人間活動の拡大と相まって、都市部を中心として、地下への浸透量の減少、地下水位の低下、湧水の枯渇、地盤沈下の進行といった量的な問題と、化学物質(VOC)、重金属、硝酸性窒素等による地下水汚染といった質的な問題が同時に進行しました。地盤沈下の問題は全国的にみて沈静化してきましたが、地下水の環境基準超過率は依然として高く、特に硝酸性窒素の汚染は欧米と同様、対策はなかなか進んでいません。

  どうしてこういう事態になるのでしょうか。砒素などの場合自然由来も多いのでしょう。また人為的な汚染であっても、原因者は工場、家庭、肥料、畜産など様々ですし、過去の汚染であったり、離れたところの汚染が影響したり、多数の原因者とおぼしき人がいる場合など、技術的になかなか原因の特定が難しいのも事実です。原因者が特定できないと対策に結びつかないことになります。銀河宇宙のことは理解が進んでも、地下のことは現在もよくわかりません。環境省の平成14年度汚染事例調査では、判明している地下水汚染で原因を特定できたのは約半数。そのうち対策をしたのはさらにその1/3しかありません。対策には費用と時間がかかるのは事実ですが、汚染をそのままにしておいてよいはずはありません。汚染者不明のまま自治体に対策のつけが回される例もあるようですが、汚染者負担の原則からしてもおかしな話だと思います。

  このほか人の意識の問題も大きいと思います。みんなの水、みんなが使うと考えれば汚染にも目配りし、汚さない工夫もなされるでしょうし、逆に使わないと無関心になり自分とは関係ない、多少汚しても誰も気にしないということになりがちではないでしょうか。例えば岐阜県郡上八幡の宗祇水。町の人々が自分たちの水として用途に応じた段階的な水利用を行う工夫をしています。町を流れる水路も地域の人の手で手入れがなされていますし、豊富な湧水が町中のそこかしこを流れる環境はまことにアメニティに富み、水が町のシンボルとなっているといってもよいでしょう。有名な郡上踊りに夢中になった人が水路に落ちる危険性があるということで、一部蓋がけされているのは仕方ありませんが、いずれにしても地域みんなで守る姿勢が感じられます。

  川や湖などと同様、地下水にもみんなの水すなわち「公水」のイメージがもっとほしいと感じています。民法に由来するそうですが、取水するときは、自分の土地の地下水はすべて自分のものという「私水論」。湧水が枯渇したり、地盤沈下や地下水汚染が生じると対策は自治体が責任を持てという「公水論」ではやりきれません。動いていかない「土地」と、地下を動き、地表の水とも循環がある地下水は意味合いが違うのではと思います。
  21世紀は水の世紀とも呼ばれ、世界的に水の問題は重要な課題となっています。地下水はヒートアイランド対策や広く環境用水としての利用も期待されますし、非常時の水としても今後ますます重要になるでしょう。普段からメンテナンスを図って、いざというときに使えるものとして保全する仕組みが必要ではないでしょうか。できれば身の回りに水の潤いある暮らしにしたいものです。