特 別 寄 稿 〜

環境先進国の有害廃棄物管理施設
―地下1,000mにあるドイツの保管施設を訪ねて―

松田 美夜子 プロフィール
1941年 生まれ
奈良女子大学卒業
経済産業省認定消費生活アドバイザー
「元気なごみ仲間の会」代表
生活環境評論家(ごみとリサイクル)
 生活環境評論家
 富士常葉大学助教授
     松田 美夜子
松田 美夜子

  カッセルの近くのヘルファ・ノイロードには、ドイツ連邦政府が唯一認可しているドイツ有害廃棄物保管場がある。国の認可を得て実際に仕事をしているのは、K+S(Kali und Salz)社である。この会社は、カリ鉱でカリの採掘を営むと共に、カリを採掘した後に残る空間を利用して、有害廃棄物を保管する仕事を行なっている。ドイツ連邦政府の指導のもとに、国内全ての有害物質の最終処理を受け持つ大手企業である。私は1990年からドイツの環境政策の動向を学ぶため、毎年ドイツを訪ねてきたが、2000年8月に念願かなって、有害廃棄物の地下保管施設を訪問する機会を得た。
  K+S社は、自然に恵まれたドイツの豊かな丘陵地帯のまっただ中にある。ドイツ国内の有害廃棄物は、全てこのK+S社に集められ、地下1,000mの岩塩層に厳重に管理保管されている。しかし、外観からはこの1,000mの地下に300mの層になって岩塩層が延々と続いているとはとても判断が出来ない。将来にわたって有害廃棄物が保管される岩塩坑の領域は、ミュンヘン市と同じ広さだそうだ。現在、実際に廃棄物を埋めている地域の面積は、4km×1.5kmの広さ。坑道の高さは、約4mある。カリ塩の採掘はまだ行われているので、その跡地を利用していけば、今後200年間の有害廃棄物の保管は十分に出来るそうだ。なんとも広大な計画である。
  有害廃棄物を埋める地層は、最も深い地下1,000mの所は、砂岩がベースを構成しており、その上に300mの厚みで、3層の岩塩層とその間に薄い2層のカリ塩層が交互に層をなして堆積している。またその上には、全く水を浸透させない粘土層が60mから80mの層を作り、さらにその上の地表に最も近い所に、500mの厚みで砂岩が層を成している。つまり、岩塩層自体は水分を全く含まないが、その上に傘のように地下水を遮断する80mの粘土層が覆っていることで、この岩塩層は地下水から遮断されていることになる。従って、岩塩層の中に有害物を保管することは、将来にわたって生物圏への影響を全く与えずにすむという環境条件が成り立つのである。



  有害廃棄物を岩塩層の中に封じ込めて処理する方法が、ドイツで始まったのは1972年からである。当時の施設は、1992年に満杯になり、現在は場所をベラ川水域の地下1,000mの地層中に永久保存施設を建設、運営している。そこが、今回訪れたヘルファ・ノイロードのK+S社である。
  K+S社の取締役社長マティアス・プロマー氏と、取締役で技師のクリストファー・ティーレ氏に案内され、鉱夫さんと同じ格好に着替えて、たて坑を1,000m下るエレベーターに乗った。
  ヘルメットをかぶり、重いバッテリー付きのライトを持ち、事故が起きた時を想定して、重い酸素ボンベを肩から担ぐと、歩くのがやっとという位の重量になる。男性はみんな背が高く、体格がいいのでこの程度の重さは何ともないようだ。小柄な私や通訳のミュラーさんは、この仕事は、女性にはむかないということをつくづく感じた。プロマー社長が、エレベーターに乗る時だけ持っていれば、地下に降りてからは全て車で移動しますから、重い救命具は座席の下に置けます、と気づかってくれる。
  それにしても、エレベーターの降りるスピードの速いこと。地下1,000mのエレベーターホールは、まるで地下都市が形成されているように立派であった。ここで働く人たちのために、新鮮な空気が地上から送られ、冷暖房のシステムもきちんと整えられている。
  驚いたのは、車輌の組立工場があったことだ。その広さは長さ400m、幅100m、高さ30mという大きなドームになっている。この地下施設で動いている車輌はすべて、ここで組み立てられ修理が行われ、その一生を一度も太陽を見ずに過ごすことになる。

◆保管廃棄物の種類
  部屋ごとに分別保管される有害物質のグループ
  (1)  シアン化合物
  (2)  ハイドロカーボン
  (3)  焼却炉フィルターのダストから出た有害物質
  (4)  焼却灰プラントのガス洗浄機から出た固形反応物
  (5)  家庭ごみの焼却灰
  (6)  熱分解工場から出た熱分解残渣
  (7)  クロムを含んだもの
  (8)  カドミウムを含んだもの
  (9)  ニッケルとカドミウムを用いたバッテリー
  (10) 水銀及び水銀を含むネオンランプから回収された水銀ごみ
  (11) ナトリウム、カリウム、リン酸塩ごみ
  (12) PCBを含む物質
  (13) 塩を含んだ特殊ごみ
  (14) 顔料の生産行程からの廃棄物
  (15) 農 薬
  (16) 使用済み乾電池
  (17) 期限切れの医薬品
  (18) トランス
  (19) その他

◆保管条件
  有害物質の保管条件
  (1) ごみは爆発性でないこと
  (2) 発火性物質は含まないこと
  (3) 有毒ガスを発生しないこと
  (4) 固形物であること(液体は地下貯蔵しない)
  (5) ごみを保管する容器は、化学的にも機械的にも耐久性があること
  (6) 岩塩と反応しないもの
  (7) 放射性物質でないこと
  (8) 生産者からのごみであること(ごみの素性を明らかにする)

◆管理手順
  保管部屋満杯後の完全管理手順
  (1) パッキング(種類別の分別保管)
      耐火性があり、化学的にも物理的にも安全なコンテナでなければならない。特別な
    ごみはコンクリート詰めにする。
  (2) 隔壁作り
      収納室が一杯になったら、レンガで入口を塞ぐ。入口の壁は収納したごみを完全に
    遮断し、他の収納室と隔離する。
  (3) 収納分野ごとの隔壁
      ほぼ5年ごとに大規模な隔壁を作り、分野ごとにごみは完全に密閉される。隔壁は
    2つのレンガ壁からなり、それぞれ5、6m離して作られる。2つの壁の間の空間は、
    コントロールチューブを通した後、合成耐水コンクリートで埋められる。このコントロ
    ールチューブを通して、隔壁の内側の空気の変化を、将来にわたってずっと監視する。
  (4) シャフト(地上と地下をつなぐたて坑)の閉鎖
      将来、カリ塩の採取が終わり、ヘルファ・ノイロードのごみ処理が終了した場合、地上
    と地下をつなぐ唯一の通路のシャフトも耐水コンクリートで埋められる。このことにより
    保管されたごみは、生態系から確実に隔離される。
  (5) 記録
      何が地下のどこに、どれくらい(量)、誰が持ってきたかという詳細な記録が作成され
    ている。また、全てのごみ、壁、隔壁に関する記録(地図)も作成されている。将来、
    地下の埋設地は、有害廃棄物の大きな保管庫、または倉庫の役割を果たし、全ての
    項目について、その位置を含めて、管理状態を知ることが出来る。

  現在ここに持ち込まれる廃棄物の30%は焼却工場からの灰やダストで、次いで有害物質を含んだ汚染土壌などが25%、金属工業からの廃棄物が20%、農薬・化学薬品などが20%、トランス・コンデンサーなどが5%となっている。年間の受入量は約10万トンである。
  環境を守るために、ここまで徹底して有害物質を管理する国があることに圧倒されてしまった。理論と実践に基づくドイツの有害廃棄物管理システム。それは有害廃棄物の管理システムとして完璧なシステムであった。