土壌汚染問題の解決のためには制度の充実、経済性に裏付けられた技術の整備、適切な費用の負担のあり方等が重要な要素として挙げられる。そこで土壌汚染調査・浄化に社会的にどれほどの費用を要するかに焦点を当て、我が国の土壌汚染問題検討に際して欠かせない費用情報の創出を試みた。具体的には、土壌環境センター内の企画委員会第3分科会を中心に平成10,11年度の2年間、調査研究活動を行った。
先進諸国の関連情報も収集活用した。たとえば、米国における汚染浄化需要に対して技術開発や市場進出を意図する人々のため、また官民の技術・市場戦略策定の一助となる市場の全体像を示した、EPAのレポート(Cleaning
Up the Nation's Waste Site:Markets and Technology Trends 1996 Edition)の主旨を参考にした。
「海外における土壌汚染規模の推計手法」を調査した結果、各国ごとに特色があり、統一された手法はないといえる。我が国では通産省が工業の実態を把握するため毎年全国の製造事業所を対象に工業統計調査を実施し、その結果を「工業統計表」として公表している。
これらの統計などから産業構造の解析を行い、そこから土壌汚染の実態を推定(ポテンシャルの推定)することが可能である。平成11年12月現在、我が国では土壌環境基準としては25項目(地下水環境基準は23項目)が定められており、さらにダイオキシンが追加された。また、地下水環境基準には硝酸・亜硝酸性窒素、ホウ素、フッ素、も追加された。これらの項目物質の用途と汚染可能事業所とは、密接な関係があると考えられる。土壌汚染の定義については環境庁の土壌環境基準(平成6年3月)に拠った。製造業に対しては主として通産省工業統計表産業編(平成10年4月刊行他)、用地・用水編(平成10年5月刊行)のデータを解析することによって推定を行った。これらの統計は特に従業員4名以上の事業所について充実しており、わが国工業の実態把握と産業構造分析などに役立つ。これらの統計から「製造業における土壌汚染調査の実施が望ましい事業所数・面積」を推計した。非製造業については土壌汚染調査の実施が望ましい産業をとりだして考え、企業数などの把握を試みた。本研究では環境庁の土壌・地下水汚染対策指針で定められている「現況把握型」を前提に検討を進めた。土壌汚染調査費用は地質調査、試料採取、環境計量分析などの費用から成り立つ。これらの費用は地域や調査会社によって差違があるので、サイトと化学分析項目などについて一定の前提条件を設定し、一カ所あたりの調査費用を推定した。「土壌汚染調査の実施が望ましい事業所数等」と「土壌汚染調査推定単価」から「我が国における土壌汚染調査費用の推定」が可能となった。土壌汚染存在確立はVOC,重金属などについて0%から40%と仮定した。産業別に分類したそれぞれの産業がどのレベルに該当するかは、土壌環境センター会員企業の実務専門家者へのアンケート調査・ヒヤリングを行いその結果から、推測・仮定を行った。土壌汚染浄化費用「土壌汚染一カ所あたりの浄化対策費用」についても同様のアンケート調査・ヒヤリングを行い、推測・仮定を行った。土壌汚染対策費用の算出(推定)は次の式に拠った。
土壌汚染調査費用
=(土壌汚染調査の実施が望ましい産業別事業所数または面積)×(平均的汚染調査費用(単価))
土壌汚染浄化費用
=土壌汚染調査の実施が望ましい産業別事業所数または面積)×(汚染の存在確立)×(平均的汚染規模(汚染土壌量))×平均的浄化費用(単価)
土壌汚染対策費用
=(土壌汚染調査費用)+(土壌汚染浄化費用)
これらの手法によって「土壌汚染調査費用」は2兆3,000億円、「土壌汚染浄化費用」は11兆円、合計13兆3,000億円という結果を得た。
( 文責:山本 勇 )
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