新 任 課 長 挨 拶


持続可能な社会の構築と「土」の健康管理


   環境庁水質保全局土壌農薬課長  伊藤 洋

  去る6月8日付けで着任しました伊藤です。今回社団法人土壌環境センターの会員の皆様方とご一緒にお仕事ができますことを大変光栄に存じますとともに、責任の重大さを痛感いたしております。前任者の西尾に引き続きよろしくご支援のほどお願い申し上げます。
 直前までは農林水産省の環境保全型農業対策室で、土づくりとともに化学肥料、農薬等の使用の低減による環境と調和のとれた持続的な農業(すなわち環境保全型農業)の確立に向けての施策を担当していました。また、それ以前にバイテク関係の業務にも8年ほど関わっていましたが、その際関係省庁や産官学の連携の下に、糖質工学、ゲノム解析等のプロジェクトの立ち上げ、遺伝子組換え生物(GMO)の安全評価ガイドラインの策定等を担当しました。これらの業務は、今回の土壌や農薬関係の業務とも少なからず関係があり、これらの経験を少しでも生かせればと考えています。
 昨今持続可能な社会の構築や、新たな世紀に向けての持続的発展の実現が重要な政策課題となっています。「土」も環境の重要な構成因子であり、人をはじめとする生物の生存の基盤として、また、物質循環や生態系の維持の要として重要な役割を担っていますが、仮にその機能が損なわれ、劣化や喪失を招くと、持続的発展どころか人類の生存さえもおぼつかなくなるおそれがあります。
 時代を古代にまでさかのぼってみますと、メソポタミア、インダス、エジプト、黄河の四大文明は、いずれも農耕と牧畜を中心に展開する中で高度な都市文明を築き上げましたが、森林の伐採と小麦の連作、家畜の過放牧等により、土地の砂漠化、表土の流失、土壌劣化を招き、この結果、生産活動自体が立ち行かなくなり、これが文明の崩壊へと繋がりました。
 とりわけメソポタミア文明は、四大文明のうちで最も古く、約1万年前の「肥沃な三日月地帯」での麦作農耕に始まり、5千7百年前にはチグリス川・ユーフラテス川流域では既に都市文明が栄えていました。しかしながら、度重なる森林伐採と灌漑による麦作農耕や羊等の放牧の継続により、かつての落葉ナラやレバノンスギ、マツ等の大森林はほとんど姿を消し、農耕地の乾燥化、塩類集積、土壌の劣化が進展し、その結果、現在のような見渡す限りの荒涼たる砂漠となってしまったわけです。当時の人々もこのような不適切な人間活動が環境破壊の要因であることを認識しており、その一端は、古代都市ウルクの王ギルガメッシュが森の神フンババを殺害する「ギルガメッシュ叙事詩」にも現れています。換言すれば、不適切な土壌管理や生産活動が環境の悪化を招き、文明そのものを滅ぼしたということでしょう。
21世紀の人類の繁栄と地域及び地球的規模での環境問題の解決のためには、このような歴史的な教訓を現代社会にいる我々が環境メッセージとして受け止め、再評価することが重要と考えられます。すなわち人類の繁栄とその文化の持続的な発展を長期的な視野から実現するためには、「土」の環境の適切な管理を含め、人間活動が与える環境への負荷をより小さいものとし、生態系との共生を図って行く必要があります。
 現代文明におけるさまざまな人間活動に伴う環境負荷は、古代に比べると、とてつもなく大きく、多種多様なものとなっています。特に土壌・地下水汚染等の環境問題については、その発生メカニズムがますます複雑化しており、科学的知見に基づく土壌汚染の防止や回復のための方策、すなわち「土」の健康管理がより重要な課題となっています。
この意味で、新たなミレニアムに向けて、社団法人土壌環境センターの活動に寄せられる期待と役割は、ますます大きくなっていくものと考えられます。私も微力ながら、土壌・地下水汚染対策等の推進と土壌環境センターの発展のため精一杯取り組む所存でありますので、会員の皆様方にはご指導、ご鞭撻を賜りますようよろしくお願い申し上げます。