第3回国際土壌・地下水環境ワークショップ

(IWGER2000) 開催報告

 (社)土壌環境センターの主催による第3回国際土壌・地下水環境ワークショツプは、去る1月20日に東京都品川区の立正大学石橋湛山記念講堂にて開催された。産学官から500人余の参加者があり熱気に溢れたワークショップとなった。
 今回のワークショップは「汚染地浄化の経済性評価」をテーマに、(社)土壌環境センター岡安誠会長から開会の挨拶があり、引き続き日本・オランダ・アメリカ・シンガポール・中国の実務に携わっている講師陣により各国における汚染調査・浄化技術の状況や経済性を考慮した汚染浄化の考え方などの講演が行なわれた。日本からはセンター会員による4編、海外のオランダ・アメリカ・シンガポール・中国からは各1編の講演(前表)があった。
 上記8編の講演終了後、塚原伸一郎会員が司会を務め、司会者自らの話題提供として「調査・修復に費用をかければ、かけた費用以上に売れるような、利用価値と浄化の証明を支援する制度、仕組みができれば、浄化は進み土地の流動性も高くなる。今回の議論が、そうした仕組みについての国民的合意づくりのきっかけになれば」との口火でパネルディスカッションが行われた。パネラーはヴィーニス氏(オランダ)、サリバン氏(アメリカ)、テイ(鄭)氏(シンガポール)、リュウ(劉)氏(中国)、山本勇および中島誠会員の6名で、各氏から次のようなコメントがなされた。

 オランダ
・競争の激化の中で汚染浄化をやるのにコストの試算は日進月歩変わっていく。
・フリーな市場競争を行うことにより質的に変わっていく。
・静々粛々と前向きに行くべきである。

 アメリカ
・これからの10年は技術の進歩で変化していくので大事な時期である。
・技術の進歩と浄化への投資の拡大はポジティブに前向きに行動し、さらに国際社会における我が国の形成合意のもとに正々堂々と前向きに進むべきである。

 シンガポール
・浄化技術の進歩とコストの縮減の取組みとても大切である。

 中国
・技術を進めていくために近隣諸国とチームを組んでやることが大事である。

 日本
・浄化コストの適正化と住民とのコンセンサスとても大事である。
・浄化のゴールの基準や効果的な基準についての問題を解決すべきである。
・汚染を抱えている土地の効果的な利用、対策のかけ方、情報公開等が今後の課題である。

 最後に閉会の挨拶として、センター美坂康有常務理事から「今回のワークショップの講演やパネルディスカッションで学んだことが今後の土壌・地下水汚染浄化に活用できれば好ましい。浄化技術については海外(先進諸国)に学ぶところが多いので、今後センターとしても前向きに海外に出かけていって研鑽を積みたい。さらに、今後積極的に日本から諸外国に問題提起を発信していきたい」との締めの言葉で盛り上がったワークショップを閉会した。
 なお、翌日の21日(9時30分〜12時)には三田NNホールにて、(社)土壌環境センター主催で前日の8名の講師を交えてフリーディスカッションが行われた。各国の講師による現実に直面している汚染サイトの現状、法制度、汚染情報の保存、参入ビジネスのノウハウ等について参加者60余名と、生の意見交換や質疑応答など活発で盛り上がったプログラムであったことを付記して結びとする。  

発 表 者 名 表  題 要   約
在原 芳人
アジア航測(株)
地盤環境特性に応じた浄化・修復技術の適用とその経済性に関する問題について 多くの汚染サイトでは有害物質の使用履歴や地質構造、汚染状況によっては調査地点の密度、対策手法を段階的に選択することが費用軽減上重要な要因である。概況調査段階で環境基準を超過した地点を中心に絞込み調査を行なうことにより要対策面積を縮小でき、調査・対策費用が縮減できた事例の紹介があった。
谷口  紳
(株)荏原製作所
石油系炭化水素汚染土壌の浄化技術(熱処理、バイオレメディエーション)適用可能性と経済性 トリタビリティ試験結果から、熱脱着法とバイオレメディエーション法によれば、汚染土壌1トン当たり前者で5〜10万円、後者で1〜3万円で処理可能である。両法式の特徴を生かしうまく使い分けることにより低コストで確実な浄化を図ることができる。
中島  誠
国際航業(株)
リスク的観点から見た費用対効果に基づく合理的な修復対策の計画について 我が国全体として環境負荷を低減していくための合理的な修復対策の計画方法として、環境リスクを評価し曝露シナリオの適切な経路を切断し、環境・企業リスクの観点から適切な修復対策方法を選択した上で費用対効果の高い修復対策方法を選択することが肝要である。
山本  勇
(社)環境土壌センター
我が国における土壌汚染対策費用の推定 公的な各種産業統計やセンター会員からのアンケート調査・ヒヤリング等の結果から日本全土における土壌汚染調査・浄化対策費用を13.3兆円規模と算定した。
Yvo M.M.Veenis
(ヴィーニス)

グランドウオーターテクノロジー
土壌汚染対処に関するオランダの政策変更:産業への浄化策の影響 オランダ政府は、1999年6月に土壌浄化における政府評価に関する公式文書を発表し、政策の大幅な変更を提案した。この変更は浄化の費用効果を向上させるためのものであった。政策変更に伴い産業用地の浄化や汚染土壌の土地利用、埋め戻し、建設プロジェクトへの利用が可能となり費用対効果の大きな成果が期待できる。
KevinM.Sullivan
(サリバン)
ITグループ

汚染サイト浄化の20年―経済面、法律面、規制面での教訓 リスク管理においてグレーゾーンを設けて、それを超えたら浄化し、下回ったら無理に費用を掛けずにモニタリングしながら自然浄化的な減衰方法をとることが対投資効果が高く、地球にもやさしいという考え方が生まれつつある。さらに、20年間の経験から(1)発動要件、(2)浄化目標、(3)費用負担の3点を明確にすることの重要性が示された。
Joo-Hwa Tay
(鄭 俊華)

ナンヤン工科大学教授
シンガポールにおける土壌環境工学の現在の展開 シンガポールでは新しい環境問題に対処するために、新たな環境汚染管理法が1999年4月1日に制定され、新しい規則の一つとして、土壌汚染の管理と汚染地域の浄化が義務づけられた
Xiang Liu
(劉  翔)

清華大学助教授
中国における土壌・地下水問題 中国では、近年都市部以外の各地で土壌・地下水問題が起こってきている。現在、諸外国の汚染調査・浄化技術を取り入れて前向きに取り組んでいる。


〈ワークショップ会場〉