研究所紹介

資 源 環 境 技 術 総 合 研 究 所


 資源環境技術総合研究所は、燃料研究所(大正9年設立)と鉱業技術試験所(昭和24年設立)を前身として昭和27年に資源技術試験所として発足し、平成3年度に現在の所名に改称されました。
 当所では、持続的発展と地球環境保全の両立を目指して、環境調和型技術の総体である「エコテクノロジー」を創造し、これにより、豊かな社会と優しい環境の実現に向けて努力を重ねております。具体的には、「資源・エネルギー最大利用技術(MERU: Maximum Energy and Resources Utilization)」、「環境負荷最小技術(MEI: Minimum Environmental Impact)」の研究開発を「環境影響評価(TIA: Technology Impact Asessment)」によるフィードバックのもとに実施し、真に環境に優しい技術シーズを生み出す。さらに、産官学の連携による融合研究を積極的に実施し、この技術シーズの実用化を積極的に図る。また、国際社会においても、エコテクノロジーの中核機関として、普及に努力して行く。この実現に向けて、以下に示す研究開発を推進しております。

1) 資源・エネルギー最大利用(MERU)技術
 エネルギー開発・利用においては、ガスハイドレートやバイオマスエネルギー、地熱エネルギーの開発研究を通じて環境負荷が少なくエネルギー源の多様化に資する技術の開発を目指す。また、豊富な埋蔵量を有し、将来も安定した供給が見込まれる石炭についてはクリーンな新規利用技術への展開を進める。資源の開発・利用では、環境低負荷型素材の研究開発を行うとともに、金属やプラスチックの部品・素材をリサイクルするための分離技術や原料化技術を通じてゼロエミッション型社会システムの構築に資する。

2)環境負荷最小(MEI)技術
 媒体循環燃焼、循環流動床などの高効率燃焼に係わる基礎技術開発を行うとともに、ダイオキシン等の有害物質の発生を抑制するための燃焼技術の高度化を進める。さらに、蓄熱や伝熱促進など熱エネルギーの高度利用を通して産業並びに住宅、建築物の省エネルギー化の推進を図る。環境の保全・修復では、地球温暖化に対応できる二酸化炭素の海洋隔離や化学的固定等の研究開発を行う。また、最近社会的に大きな問題となっている化学物質、内分泌攪乱物質、ダイオキシン等の難分解・有害性物質、NOx等の都市型汚染物質に対しては、発生源での分解・無害化技術をさらに高度化することを機軸としながら、バイオレメディエーションや光触媒など環境中での浄化技術開発を推進する。さらに、環境の監視・計測では、化学物質等の高感度分析技術を開発して地域での汚染実態を解明するとともに、人工衛星等の利用による地球環境計測技術等の開発を進める。

3)環境影響評価(TIA)
 環境影響評価・技術評価では、温暖化対策の技術基盤を支える地球変動予測等を可能とする温暖化予測モデルや酸性雨モデルを開発して環境影響評価を行う。また、環境・エネルギーの技術開発指針を得るためにLCA(ライフサイクルアセスメント)手法に一層の力点を注ぎ、新産業の創出に貢献する。さらに、化学物質の環境中運命評価技術開発と曝露予測に基づいた効率的なリスク削減対策の研究を行う。
   当所は、研究に関する情報をインターネットのホームページ(URL http://www.nire.go.jp/index-j.htm)で公開しており、また、共同研究、技術指導、技術相談等にも積極的に対応しております。
 (窓口:連携推進センターTEL 0298-58-8105 FAX 0298-58-8195)
 土壌環境関連研究はMEIカテゴリー中における重要分野として展開されているが、代表的な研究2テーマを以下に紹介いたします。

「土壌浄化における腐植物質の役割」
 有機汚染物質の環境での挙動や運命に、土壌に存在する腐植物質が大きな影響を及ぼしていることが明らかになってきました。有機汚染物質が腐植物質と反応し、もとの物質と化学的、物理的にまったく違う物質のように振る舞うことがあります。例えば、水に難溶性の農薬が土壌中の腐植物質に吸着することによって溶解性が増し移動・拡散し易くなったり、もとの物質に比べて分解し易すくなったり、逆に分解し難くなったりすることがあります。また、腐植物質との結合により有害化学物質の毒性が変化することも知られています。当所では、腐植物質が有害化学物質の挙動や運命に及ぼす影響を明らかにし、腐植物質が環境に益する効果を積極的に活用した新たな環境浄化の可能性について研究を行っております。
 クロロアニリン類は産業廃棄物や工場排水に含まれて環境に放出されたり、農薬などの分解物として土壌中に蓄積されます。クロロアニリン類の環境中での運命についてはまだ不明な点が多くありますが、土壌中に存在する酵素の触媒作用によって腐植物質への取り込まれていくことが報告されています。アニリン類の腐植物質への取り込み機構を明らかにするため、フェノール酸化酵素の一種であるラッカーゼによる土壌中のフェノール類と3,4−ジクロロアニリンの反応について研究しました。その結果、ラッカーゼによって生成したキノン類やキノンメチド類への親核付加反応で腐植物質に結合し取り込まれていくことがわかたりました。
 環境中でのクロロフェノール類の運命を予測するためには腐植物質の関与を考慮に入れる事が重要であります。そこで、ペンタクロロフェノールが単独のときと腐植物質前駆体が存在下するときで、反応性がどの様に異なるかをフェノール酸化酵素の一種であるペルオキシダーゼを用いて検討した。その結果、腐植物質前駆体のクマール酸存在下では、ペンタクロロフェノールの分解速度の著しい増加が認められました。このときの反応生成物を検討した結果、ペンタクロロフェノール単独ではオクタクロロジベンゾダイオキシンが生成するものの、パラクマール酸存在下ではペンタクロロフェノールの分解が促進され、しかもダイオキシンは全く生成しないことがわかりました。このことからも、土壌中における農薬等の有機塩素化合物の変化を考える上で、腐植物質の関与を考える事は極めて重要であることが確認されました。
 さらに、自然界で腐植物質が関わる光化学反応に関しても基礎的な研究を行っております。腐植物質は、可視から紫外光により励起され水和電子を放出し、それが種々の還元反応に関わっていると言われております。まず、溶存酸素が腐植物質の光励起により還元され過酸化水素が発生することを見出し、腐植物質を構成しているヒドロキシ安息香酸類の光励起が重要な役割を果たしていることを明らかにしました。次に、腐植物質によるFe(V)のFe(U)への還元反応について検討を行い、この反応速度が可視光(370nm以上)により120倍促進することを明らかにしました。以上二つの光化学反応は自然界で同時に起こりうると考えられ、有害有機物質の酸化分解に有用な水酸ラジカル(HO・)の生成を伴う光フェントン反応を引き起こすとの結論を得ました。この反応は、有害化学物質の自然浄化作用に対して重要な役割を果たすものと考えられます。

[廃棄物処分における化学物質安全管理技術]
 近年の廃棄物の発生量の増加及び種類の多様化に伴って、廃棄物処分時の環境安全性や有害化学物質の拡散等の問題点が指摘されております。また、土壌・地下水汚染に関して規制項目の追加や強化が実施されており、それに対応した抜本的な技術開発が求められております。特に、廃棄物の最終処分場における土壌・地下水汚染を防止する上で、より高度な基盤技術の確立は急務かつ必須の課題であります。本研究は、産業廃棄物の管理型処分場や産業施設の周辺の地盤環境における緊急時の有害化学物質の漏洩及び拡散を防止する対策技術として、監視型アクティブバリアーや局部人工熱変成岩等の遮断システム及び環境特性評価技術の開発について検討し、土壌及び地下水汚染に対処するための総合的な環境管理手法の確立に資することを目的としております。これらの基盤技術は、管理型の廃棄物処分場において実用化が期待される他、有害化学物質の生産、運搬、貯蔵用の産業施設においても適用可能な汎用性の高いものであります。また、環境特性評価技術の開発を通じて、高度の環境安全性を担保した化学物質管理手法の確立を目指すことができます。
 具体的には、地盤環境における有害化学物質の漏洩及び拡散防止に必要な基盤技術を開発するため、以下の研究を行っております。
(1)電気化学反応等を利用して環境媒体中において有害化学物質を選択的に捕集・無害化する監視型アクティブバリアーについて、最適な電極形状や電位の選定、地盤環境への適用性等に関する実験的な検討を行っております。

(2)反応性化学物質を用いて高温、高圧反応により局部的な人工熱変成岩を形成し、周辺環境との物理的な隔絶を可能にする遮断システムについて、反応物質の選定、土壌の固化特性や透水係数の低下等に関して実験的な検討を行っております。

(3)弾性波法と比抵抗法を組み合わせて地盤環境中における化学物質の漏洩位置評定及び濃度分布予測を可能にする高精度モニタリング技術に関して実験的、解析的な検討を行っております。

(4)上記の各要素技術のシステム化、並びに環境媒体における化学物質の移流・分散特性及び要素技術の効果を検証するための環境特性評価技術に関して解析的な検討を行っております。
   これらにより、地盤環境における緊急時の有害化学物質の拡散あるいは漏洩を防止するシステム技術の基本コンセプトを提案する計画であります。
 

研 究 所 全 景