メキシコ国の廃棄物処理
10年ぶりにメキシコ市を訪れたところ、以前より車がきれいに見え、その数も増えていたが、渋滞は余り見られなかった。廃棄物の中継基地は市内に13ヶ所もあり、70m3もある大型トレーラに約20トンのごみを積みこんで、資源回収施設あるいは埋立処分場に輸送していた。15km程度離れた所まで運んでおり、それほど効率的でないように思われた。
Bordo Ponienteにある資源回収施設は、以前オープンダンプ(覆土などをしないごみの投棄場)で有価物を回収していたスキャベンジャーに働く場を提供する目的で建設されたものである。施設内では約550名が、ベルトコンベアの上を流れるごみの中から、ガラス、金属、プラスチック、紙、布などを手選別していた。施設に搬入される以前の収集段階ですでにいろいろ有価物が回収されており、分別収集制度もないため施設内での回収率は8〜10%程度とのことであった。
埋立処分場を訪れたところ10年前とは大違いで、遮水シートはあるし覆土もしている。スキャベンジャーも居らず大変な改善である。しかし、市の財政は厳しくて遮水シートや覆土材が計画通りに入手できないのが悩みと担当者は嘆いていた。環境保全レベルはずいぶん向上したが、石油価格の暴落による収入減で処理コストは大変な負担になっているようであった。
医療廃棄物の滅菌施設(オーブン処理、電子線照射、マクロ波照射併用)を見学した。大気汚染が問題のメキシコでは焼却施設に対する抵抗が強くその導入は難しいようで、ヨーロッパと同様に、滅菌処理後に埋立処分していた。産業廃棄物の9割は家庭ごみと一緒に埋立処分されているとのことである。
メキシコへの技術協力
現在、メキシコの環境汚染防止を目的として、国際協力事業団(JICA)がメキシコ国立環境研究研修センター(CENICA)へ技術協力を行っている。日本から4名の長期専門家が派遣され、有害廃棄物、大気汚染対策を中心に、分析機器等の機材整備、人材養成、種々の計画策定、研究を実施している。
今回の私の出張はこの技術協力の一環として行われたもので、JICAとメキシコの環境庁、CENICAとの共催による「廃棄物・土壌汚染修復国際セミナー」の講師として派遣されたものである。アメリカ、カナダ、ドイツ、フランスからも専門家が講師として招待された。
私は「廃棄物処理と健康」というテーマで基調講演を行った。有害廃棄物の専門家である松村治夫氏も「日本の不法投棄とその修復」と題して講演を行い、2人で日本の経験、対策、技術の紹介を行った。
有害廃棄物局長も日本の協力を大変喜んでくれており、また大いに期待されていることがうかがえた。
メキシコの六価クロム土壌汚染
メキシコ南部での六価クロム土壌汚染の調査事例報告が、メキシコ国立自治大学(UNAM)のマルガリータ・グチェーレスさんよりあった。汚染元企業はすでに存在せず、土地の所有者はだまされて修復する財政能力はないとのこと。六価クロムを無害な三価クロムに還元する理論等も紹介された。その後の円卓会議でコメントを求められ、東京で1979年に発覚した六価クロム土壌汚染対策の対応について説明した。地下鉄工事の際に過去に廃棄処分された六価クロムが発見され、技術的に検討した結果、硫酸鉄による還元や、にわとりの糞、亜炭等の効果が経済性、遅効性の面から評価されたことや、汚染者である製薬会社が修復の費用を支払ったこと、また修復した土地を東京都が買い上げたこと等を紹介した。
いろいろな修復技術の選択にあたっては、1)技術そのものの評価、2)リスク削減効果、3)費用、4)要する時間、等を考慮して決めることになるが、誰がどれだけ費用負担するかが重要であると、豊島の廃棄物処分地修復の検討会を振り返りながら思ったものである。
リスク・アセスメントによるアプローチ
米国のサンディア国立研究所のサリー・ホイヤーさんがニューメキシコ州環境修復プログラムを紹介した。数多くの問題のある廃棄物処分場の修復を、どこまで修復するかといった場合に、『これ以上する必要はない(NFA:No
Funher Action)』をどのように判断するかを決めるフローチャートが説明された。
次ページの図 に示すように「修復を行う」、「修復を行わない」、「もっとデータを入手する」、「監視を行う」等の意思決定を行う必要がある。リスク研究学会の元会長カーティス・トラビス氏も「アメリカでは多くの汚染地が指摘されているが、調査ばかりが行われて修復が余りはかどっていない。いかに簡易にリスク評価を行い、早く決断することが望まれている」と述べていた。
この分野でも専門家の常識が問われている。
土壌環境の保全、修復に関する Website は役に立つのではないだろうか、参考のために載せておく。
なお、サンディア国立研究所は、米国エネルギー省の研究所ではあるが、民間企業ロッキード・マーチン社によって運営管理されている。日本の国立研究所の将来を見るような気がした。
<参考> 日本の現在の六価クロム対策範囲
認定基準 T(要検討) 0.05mg/l検液
U(要対策地点) 1.5mg/l検液
米国の修復目標値(暫定基準)
住宅地土壌 30mg/kg
工業地域 64mg/kg
大気環境 2.3E-5μg/m3
水道水 180μg/l
|